君は私の唯一の光
「乃々、早くなったね!」


「うん!」



いつものように、お兄ちゃんと勉強。去年、小学生になったお兄ちゃんの宿題を、一緒にやる。半年前くらいから始めてるけど、すごく楽しい。




ワイワイ楽しく、勉強という名の遊びをしていた。ママとパパは、いつも違う部屋でお仕事をしていて、私はお兄ちゃんとずっと一緒にいた。




「……うっ……————!!」




突然、お腹が痛み出した。真冬なのに、汗が額や頬、首、背中を伝う。なのに、寒気(さむけ)(おそ)い、身体が震える。




「乃々?どうしたんだよ!?」




隣に座ってたお兄ちゃんが、私の様子に気づいた。



「お腹、痛いのか?」



「………。」




私がお腹を押さえているのを見て、聞いてくる。返事も出来ないくらい痛くて、なんとか頷く。



「今、母さん達呼んでくる。」



まだ小2なのに、大人びて冷静なお兄ちゃんは、テキパキと状況を把握(はあく)して、判断してくれる。







その日が、我が家で過ごした最後だった。















「っ……————。」



慌てて飛び起きたら、見慣れた部屋。



「夢………。」



久しぶりに見た、あの日の夢。心臓が激しく波打つ。汗が背中を伝う。ゆっくり、呼吸を整える。



「久々だな………。」



私が、初めて倒れた日。その日から、1度も病院から出たことはない。私にとって、最悪な日だった。この日さえなければ、普通の生活というものを送れてたんだろうと、どれだけ考えたか。


(なげ)いても(なげ)いても、(むく)われない世の中。


『理不尽』


これが、あの日までの私の、心の芯となっていた。




でも、洸夜くんに会えてから、そんな風に思わなくなっていった。毎日が楽しいの連続。安心感があって、不安が全然なかった。



洸夜くんの彼女になれてからは、私の心に抱えていたネガティブなものを、全部拭い去ってくれた。私のことを、よく理解してくれていて、して欲しいことを言わずとも、なんでもしてくれる。




洸夜くんが、私を必要としてくれてる。それがわかっただけで、もう幸せの絶頂(ぜっちょう)だった。


ただ、私は我儘(わがまま)だから、“もっと”って思ってしまうんだ。





より長く生きて、普通の生活を洸夜くんとしたいって、願ってしまう。


今まで、散々困らせてきた周りの人は、許してくれるかな。




30%………。生きれる可能性は、ごく(わず)か。


でも、それにかけてみたいと思っている自分もいる。




「手術………か……。」




誰もいない部屋に、私の小さな声が響いた。
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