君は私の唯一の光
「なぁ、松原。ちょっといい?」


「え……うん。」




洸夜の彼女発表の翌日の休み時間。なぜか、洸夜に呼び出された。連れてこられたのは、部室。



「どうしたの?」


「実はさ………お前にはちゃんと話しておきたいんだよね。彼女のこと。」




ドキッとした。もしかして、実は本心で付き合ってるわけじゃないとか?

あの笑顔が嘘だとは語っていなかったのに、少しの期待をしてしまう。



「改めて、俺に彼女ができました。相手は、同じ病室だった、桑野乃々花。お見舞いに来てくれた時に、倒れちゃった子だよ。」



覚えてる?と言いたげな瞳で私を見る。



「うん、覚えてるよ。あの可愛い子でしょ?」



正直、顔なんて見ていない。ただ、あの時の洸夜の焦りっぷりに、ヒヤッとした瞬間があって、気づいたら声をかけていたんだけど。

ちゃんと覚えてるっていうのを伝えたくて、部員たちが“可愛い”って言ってるのを、使わせてもらった。




「やっぱり、乃々花って可愛いよな!」



乃々花…………。下の名前……だよね…?


今まで、洸夜が女子を下の名前で呼ぶのを見た事がない。私も“松原”だし、例の宮本花梨も“宮本”って呼ばれてる。


洸夜が下の名前で呼ぶのはずっと、男子と妹さんだけだった。




「下の名前で呼んでるんだね………彼女のこと。」




「え?下の名前………?」




肝心(かんじん)なところで鈍感な洸夜は、私が言った事がわかっていないようだった。



「洸夜、私の事は“松原”って言ってるでしょ?他の女子を下の名前で呼ぶのなんて、聞いたことなかったから。」



「…………あー、そうかも。なんでか、わかんないけど、確かに今まで女子を下の名前で呼んだ記憶ないわ。」



「でしょ?不思議だわ。」



「初めて会って、お互いに名前を教え合った時も、フルネームで言ったのに、なんでかな?」



「それだけ、仲良くなったってことじゃない?」





2人の仲の良さを、ゆっくり説明されてる気がした。洸夜に非はないけど、胸が痛い。





「んー、でもな…………。」




洸夜は納得してないみたい。別にどうだっていいよ。特別だっていうのは、変わらないでしょ?




「フルネーム聞いて『“乃々花”っていうんだ、こいつ。』って、思ったんだよね。そっからずっと、“乃々花”って呼んでるわ。」





ついに、直接鈍器で頭を殴られた感覚になった。



こんなの…………最初から洸夜の運命の相手は、“乃々花”って人に決まってて、私が恋したのは無駄だったって、突きつけられたみたい。どんなに足掻(あが)いても、無意味で。どんなに頑張っても、効果なんてない。



これまでの努力が、全て水の泡になった瞬間。









私の中で、何かが切れた。プツンって音と共に。








は?なにそれ。最初っから、洸夜に下の名前で呼ばれてたの?フルネームを伝えて……?





2人の間に入る余地はない………そんなの、わかりきってるはずのこと。ただ、いつか2人が別れたら、今度は私にもチャンスがあるかも………って、密かに思ってたのが、恥ずかしい。








でも、私は性格悪いから…………







ごめんね、洸夜。
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