君は私の唯一の光
(ちり)も積もれば山となる』


今の私は、まさにその中に埋れているんだろう。

最初から私にとっては“塵”なんていう可愛いものではなかったが、私の黒い想いは抑え切れないほど、膨れ上がった。『なんと心が狭く、最低な女なんだ』と言われても、仕方がないことをしようとしている自覚はある。


だが、もう私を留めることは、洸夜であっても不可能だと言い切れる程。




「ごめんね、洸夜。」





目の前の扉を開ける。ゆっくり、私と彼女の視線が混じり合った。




「松原さん?」





彼女が私に問いかける。





「久しぶり、乃々花ちゃん。」





“正解”の意味も含めて、笑顔で答える。この笑顔は俗に言う、“怖い笑顔”だろう。







もう、後戻りはできない。







挙動不審(きょどうふしん)な感じで話す彼女にイラつく。洸夜の彼女なんだったら、堂々としてよ。




って、前なら思っていた。でも、今の私から言ったら、そんな姿も最高だ。私を見て、(おび)えてる。それだけで、こんなにも優越感(ゆうえつかん)が味わえる。一生、怯えてよ。私が洸夜の側にいて、焦って?それでだいぶ、私の心は満たされるから。


これぞ、“サイコパス”?





「今日、洸夜はここに来れないんだって。」



「はい……。さっき、連絡が来ました。」





連絡………洸夜ととってるの?思いっきり忘れてた、携帯の存在。彼女なら、彼氏と交換するのは当たり前だろうが、私には余裕がない。

さっきまでの笑みが、一気に消えたのを感じた。
確かめると、案の定『はい』という返事。




思わず、舌打ちが出た。




気持ちを新たに、洸夜との関係について聞く。彼女を苦しめるために。



しばらく考えてから発された言葉に“彼氏”という単語は、含まれていなかった。



そこからどんどん彼女を追い詰める。


気づけば、彼女の呼び方は、“貴方”に変わっていた。



洸夜と別れさせるため…………

彼女の心を深くえぐるため…………





さらに嘘をつく。



『中学で父が死んだ』っていう嘘。



もちろん、父は健在。聞く人が聞けばわかる嘘。洸夜がここにいたら、使えなかった。まぁ、そのために今日にしたんだけど。洸夜がここに来られないってわかったからね。顧問に呼び出されてた。たぶん、部の引き継ぎの事だと思うけど。




嘘を利用して、(たた)み掛ける。




「私と同じように苦しむ人は、いなくなって欲しいの。」





その言葉に、彼女はあからさまに顔を(ゆが)めた。私の言わんとしていることが、わかってきたらしい。さっき、私の本心を口にしたせいで、視界がぼやけてきた。私って、涙流せたんだ。記憶にある中で、泣いている私の姿はない。



洸夜に………好きな人に、彼女が出来たって聞いた時も、涙は出なかった。きっと私って、冷酷な人間なんだろうなって、ずっと思ってたけど。

辛かったことを口にすると泣けるんだ、私って。



でもやっぱり、私の最低さは変わらないよ。





「洸夜と別れて下さい。」





頭を下げる。普段、人から“下”に見られるのが嫌いな私でも、普通に下げれた。それくらい本気なんだなぁ、私。



顔を上げると、この世の終わりみたいな顔をした彼女がいた。これぞ、私が見たかったもの。この様子なら、無事に別れるんだろうな。“無事に”っていうのは変か。


だってこれで喜ぶのは、当事者の洸夜と彼女じゃない。他人である、洸夜のことが好きな醜い女子だけだ。






絶望を味わったような彼女を見てから、私はその場から立ち去った。




病室から出て、笑顔を浮かべる。これで、全てが終わった。













なのに、気分は晴れないままだった。

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