君は私の唯一の光
「はよー。」


学校に着くと、いつも通り1人で読書をしている松原がいた。


なんとなく嫌な予感はしながらも、気のせいだって割り切る。



「松原、今ちょっといい?」


「…………うん。」



以前、乃々花との事を報告した時と同じように部室に来た。部活の時以外では誰も足を踏み入れないから、他の人に聞かれる心配はほぼない。



さっき、話しかけてから一言も喋らない。なんか、覚悟を決めてるような切羽詰まった感じ。




「松原。聞きたいんだけどさ、2日前乃々花の病室に行ったんだよな?」


「………そうだよ。」


「……何を乃々花と話した?」



さっき以上に張り詰めた空気になった。いくら鈍感だって言われてる俺にもわかる。まさか、俺の予想が当たってた?俺が当たらないで欲しいって願ってた予想が………。



「それ、言わせるんだ。」


投げ捨てるように言われた。“言わせる”ってなんだよ。


「私は、桑野さんに嘘を言ったよ。」


あっさり肯定された。それに無償に腹が立った。乃々花をあんなに苦しませたのに、松原は、なんとも思ってないみたいで。



「内容は聞いてるんでしょ?“私は中学でお父さんが死んだ”って言ったんだよ。」



真顔で紡がれていく言葉。松原のいつも冷静なところに感心してたのに、今日はイラつく材料でしかない。



「なんで、そんなすぐバレる嘘を言ったんだよ。」



怒りを抑えて言ったら、笑顔で振り返られた。



「なんでだと思う?」



松原って、こんな奴だったか?誰よりも“孤独”の辛さをわかってて、その分“優しさ”を持ってる奴だと思ってた。



「ただの“気分”だよ。」



「は?」



“気分”って。どういうことだよ。


「じゃあ松原は、中学の時のことは周りの気分だったからって理由で割り切れるのかよ。」



絶対そんなの無理だろ?イジメとかも、“気分だから”で済まされない。それと一緒だろ?



「割り切ってるよ。だって、しょうがないじゃん。生まれつきこの顔、この目なんだもん。人間なんて、なんでも“気分”でしか生きてないんだよ。感情の大元(おおもと)は、気分なんだから。」



失望とか、そういうものを感じると、(あき)れや(あわ)れみがでてくるらしい。

松原って、こんな冷酷な人間だったんだって失望。その途端、『こんな考えしかできないってどうかしてる』『可哀想(かわいそう)な奴だ』っていう呆れ、憐れみが湧き上がる。



「松原が、そんな奴だなんて思わなかった。でも、今回知れて良かったわ。」



そのまま松原の顔は見ず、部室のドアに手をかける。病院のドアと同じ引き戸に、乃々花が思い出された。



「最後に言っとく。これ以上乃々花の事傷つけたら、俺はお前に何するかわかんねーから。もう一生乃々花に近づくなよ。」



警告をして、部室を出た。


乃々花を悲しませたアイツを、俺は絶対許さない。


静かに胸の奥底で沸騰(ふっとう)し続ける怒りは秘めたまま、クラスに戻った。
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