君は私の唯一の光
「乃々花、よっ!」



松原への怒りを持ったまま、乃々花の病室に入った。乃々花ならきっと、癒してくれるもんな。



「洸夜くん、来てくれてありがとっ!」



純粋な笑み。全員、この笑顔が出来るような心を持っていればいいのに。



「洸夜くん、いつもより疲れてる?」



小首をかしげられた。かわいい……。


ってか、俺ってそんなに顔に出てたかな?今まで信用してただけあって、今日の松原との事がだいぶダメージになってる。


あーもー、乃々花とは笑っていたいのに。



「いや、大丈夫だよ。」


「……無理しないでね。」



相手の気持ちを考えて、隠そうとしてる事を深く追究せず、遠回しに気遣ってくれる。これができる女子って、今のところ乃々花と松原にしか、出会ってきてなかったかも。



こう考えると、松原と俺は、まあまあ濃い時間を過ごしてきたんだなって実感する。

多分、互いに居心地のいい距離感にいたからだと思うけど。

なのに、松原の本性に気づけないって……俺ヤバいな。いつか人生、転落しそう。



自分の将来を軽く考えただけで、乃々花の手術が脳を(かす)めた。これから先の未来に乃々花はいないかもしれない……そんな事、思いたくない。



今日・昨日は、いろんな事が一気にありすぎだ。精神的に参ってるのがわかる。



不安が胸に渦巻いてるのが嫌で、乃々花を抱きしめた。だいぶ落ち着けるはずだから。



何も言わずにハグしたもんだから、乃々花の焦ってる声が耳元で聞こえる。それが、“生きてる”ことの証明みたいで、余計に俺の不安を(あお)る。



「乃々花…………。」



生きていてほしい。ただそれだけが、俺の唯一の望みだ。


あとは、全部自力でなんとかするから……乃々花の生命を奪わないでくれ。



「洸夜くん……。」


そっと、俺の背中に乃々花の小さな手が回された。この温もりに、俺はあと何回触れられる?一生がいい。ずっとずっと、乃々花と隣で笑い合っていたい。




「ごめんね……。」



多分乃々花は、俺の胸中にある事を察した。自分のせいで…ってまた思わせてしまった。




乃々花の心にある、罪悪感という名の“棘”を、俺は抜けるだろうか?



「洸夜くんに、ちゃんと話したい事があるんだ。」



「何?」



「あのね…………————」




乃々花によって紡がれた言葉に、俺は反応できなかった。


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