君は私の唯一の光
【said 洸夜】


現在、午後8時。


こんな時間に、男が女の家を訪ねるのは、非常識だろうけど、今日のうちに、どうしても話したい事があったから、松原の家の前にいる。


中学で数回来ただけだけど、意外と覚えてた。


『話がしたい。今、お前の家の前にいるから出てきてくれない?』


メールを送った2分後。松原が出てきた。その目元は、赤く腫れていた。




「なんの用?」


突き放すような言い方に、中学で初めて松原と話した時のことを思い出す。当時は、特に気にならなかったけど、今思えば、すっげー鬱陶しがられてた。それに気づかなかった自分に苦笑する。



「今日、乃々花と松原が話した内容を聞いた。」


「………あっそ。」



今更なんだ、っていう感じの目で見てくる。こんな松原、初めてだな。



「お前が俺を、どう思ってたのかも聞いた。」



わかりやすく、肩を強張らせる松原。そりゃあ、そんな事まで知られてるなんて思わないよな。


乃々花も辛そうな顔をしながら教えてくれた。自分でも、言うべきかどうか悩んでたんだと思う。どうせ、乃々花の事だから“洸夜くん、私じゃなくて松原さんと付き合うことになっちゃうのかも……”なんて思ってたんだろうけど。顔に出てたし。



「桑野さんから聞いたの?」


「うん。」


「そ………か…。」



明らかに動揺し出した松原。



「ごめん、俺は乃々花が好きなんだ。」



追い討ちをかけることになるかもしれない……。でも、これが俺の正々堂々とした想いだから。



「……知ってるよ、洸夜と桑野さんの間に入る余地がないことくらい。だって、洸夜の顔見てたらわかるもん。私には、少しの希望もないってこともね。」



「……ごめん。」



話がしたい……と思っていたものの、この流れは初体験で、どうやって回していけばいいのかわからない。


とりあえず、謝った。



「私こそごめん。洸夜に嫌われれば、キッパリ忘れられるかと思った。」



だからか。あんな、すぐわかる嘘ついて、俺を怒らすような事言ったんだ。



「でも……無理だった。軽蔑(けいべつ)されても忘れられないなんて、異常だなって自分でも思うけど。私、洸夜が好きだよ。相当ね。だけど、もう本当にこの気持ちを忘れられるように頑張る。」




松原……ごめん。こんなに想ってくれてたとは、思わなかった。


そんな素直な心の声は、喉につっかえた。肝心なところで、弱虫だよな……俺。




「私が洸夜の事を諦められたら、また友達になってくれる?」



「……もちろん。ってか、俺はお前と友達の縁、切るつもりねーから。」




「……ありがと、洸夜。」




松原、本当にごめん。でも、こんな俺を想ってくれて、ありがとう。



これからも、友達としてよろしくな。
< 54 / 97 >

この作品をシェア

pagetop