君は私の唯一の光
【said 洸夜】



手術室を離れ、乃々花の病室に入った。


ベット脇の棚は、今まで以上にしっかり整えられていた。それに胸が痛む。乃々花は、万が一のことも考えて、後処理が楽なようにしたんだと思う。そういうとこ、本当によく気づくよな。



乃々花の前の……俺が以前いたベットに腰を下ろすと、初めて乃々花に出会った日が、一気に脳内を駆け巡った。


目を閉じる。


最初は、すっげー突き放されてたな。なのに、気にせず話しかけてた自分って……。周りの空気を読むの、まあまあ上手い方だと思ってたけど、全然だわ。



だんだんと、心を開いていってくれたのが、すごく嬉しかった。いろんな話、目をキラキラさせながら聞いてくれて、話すのが楽しかった。



そういえば、翔さんに嫉妬もしたな。お兄さんに……って、馬鹿だよな、俺。姉貴も大概だけど、俺も一緒だわ。



1つ思い出すと、連想ゲームのように次々と一緒に過ごした日々が思い浮かぶ。



初めてのキスも。初めて涙を見た日も。


今思えば、全てが宝物だ。大袈裟なんかじゃなくて。




会いたい。抱きしめたい。今、この瞬間も、乃々花は生きてるんだって、実感させてほしい。



乃々花、頑張って戻ってこいよ。それで、楽しい思い出を、これからも沢山作ろうな。




今戦い抜いている乃々花に、心で語りかけ、目を開ける。乃々花に届いていますように。



ふと、俺がいたところのベット脇の棚の引き出しが、僅かに開いているのが、目についた。不思議に思って引き出しを開くと、1つの青い封筒が。そこに、白ペンで『洸夜へ』と、見覚えのある字で書かれていた。



「っ……。」



それは明らかに、乃々花の字だった。少し丸っぽい、女子らしい字体。



そっと、封筒を取り出す手が震える。



丁寧に折られた便箋と、そこに綴られた可愛らしい文字。





『洸夜へ

急にごめんね。でも、これを読んでるって事は、私、死んじゃったかな。洸夜にもう会えないのは寂しいし、悲しいけど、手術を受けて悔いはありません。あ、でも、1回くらい外で、デートとかしたかったな。

初めて洸夜に会った日。正直、洸夜のことは嫌いでした。だって、静かに過ごしていたかったのに、すごい話しかけてきたんだもん。鬱陶しい…って思っちゃってた。

でも、洸夜と話していくうちに、自分の世界が広がって、自分の嫌いな自分を無くすことができました。私、死ぬのを望んでたんだよ?でも、洸夜に会って、話すようになって、友だちになってもらえて、彼氏になってくれて……って、今考えたら、夢物語みたいな幸せな日々が続いてて、ちょっと怖いなって。

洸夜、本当にありがとう。私、洸夜がいなかったら、生きるための選択を一切せずに、死んでたと思います。洸夜のおかげで、私は後悔しない人生を歩めたと思います。

何より、私は洸夜のことが大好きでした。その気持ちは、絶対誰にも負けない自信があるんだよ。

今までありがとう。これからも、洸夜の明るさと、優しさで、悲しんでる人を助けてあげてね?洸夜は、名前通りの人だよ。暗闇から、光として連れ出してくれた。洸夜、私の分も、幸せに生きてね。


P.S.
私よりも好きな人ができたら、遠慮なくお付き合いください。洸夜の幸せを、誰よりも願ってます。

乃々花より』





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