君は私の唯一の光
【said 翔】



『乃々花さん、意識を取り戻されました。特に障害も残っていません。後日、精密検査をし、今後についてのお話をさせていただきます。』




深谷先生直々の電話に恐怖があったが、いい報告でよかった。




ここ5日。何にも集中できない日々が続いていて、だいぶイライラしてたけど、ようやく落ち着く。今日は、よく眠れるな。





「あ、夕菜に連絡しとこ。」




乃々花の彼氏・洸夜くんの姉の夕菜は、乃々花が目を覚さないと知り、大泣きしてくれていた。それから毎日の朝昼晩、乃々花の状態を俺に聞いていた。




これまで、乃々花の心配をするのは、俺ら家族だけ。幼少期から、病院内にしかいなかった乃々花には、友だちという人がおらず、孤独な思いばかりをさせてきてしまった。




不謹慎だけども、洸夜くんが骨折してくれて良かった。でないと、今の乃々花はいない。洸夜くんには、何をしても感謝を伝えきれない。




乃々花が眠ってる間も、俺らよりも長い時間、乃々花の側にいてくれた。ほんと、乃々花のことを頼りすぎてる。いくら彼氏だからって……な。






『乃々花、目を覚ました。心配してくれて、ありがとな。』






経済学部の俺とは違い、文学部心理学科の夕菜。全く接点がなかった俺らが会ったのは、無理矢理連れて行かれた合コン。人数合わせのために呼ばれた俺は、即帰ろうとしていたのに、夕菜に止められ、帰れなかった。




俺以外の男たちが夕菜狙いなのは確実なくらい、夕菜はその中の女子で1番美人だった。だから、最初のうちはあまりいいイメージを持ってなかった。今まで俺の周りにいた美人と言われる女は、正直言って、嫌いだったから。




ただ、夕菜はどことなくあの女たちとは違って、乃々に似てた。天然バカなところとか、特に。




そんな夕菜は、今では1番仲のいい女友だち。





これを引き合わせたのも、“運命の悪戯”的なものな気がする。いくらなんでも、こんなに偶然が重なってたとしたら、怖いくらいだ。だから、非現実的なものは信じたくなかったけど、信じざるを得ない。





この世は不可思議で、難解なことばかり。不公平で、残酷なことも多い。





乃々のように、悲劇の毎日を送っている人も少なくないだろう。




そんな世の中だからこそ、本当の自分をわかってくれる人が必要不可欠なんだと思う。




どんなに大変でも、その人と一緒なら乗り越えて、前に進めると思う人。それが、乃々にとっては洸夜くんだったんだ。





2人の起こす奇跡は、誰も計り知れない。





これからの2人の幸せを、心から願うよ。
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