うそつきアヤとカワウソのミャア

02. 嘘つきアヤ

 小学生時代、四年生くらいからの記憶は今も鮮明だ。あの頃の私は、周りの皆をからかうのが大好きだった。

 登校中にロープの切れ端を拾ったら、すかさず左右に細かく振って、蛇だと友人を驚かす。
 給食を喉に詰まらせたフリをしたり、赤い絵の具まみれにした手を見せて、指を切ったと騙したり。

 一番の被害者は、同じ町内に住む紗代(さよ)ちゃんだろう。

「アヤアヤ、やめてよ! もうっ」

 何度こう言わせたことか。
 ちなみに、アヤアヤという珍妙な渾名(あだな)は定着しなかった。

 綾月(あやつき)亜耶(あや)、アヤが二回も続くからアヤアヤ。
 “アヤアヤ”は中学に上がる時には廃れ、親しい友だちは私をアヤと呼ぶようになる。

 変わったのは呼び方だけじゃなく、イタズラの傾向もだった。
 男子顔負けの行動は鳴りを潜め、替わって口で相手を煙に巻くことが増える。

 お気に入りは、「見える」パターン。
 喋っている途中で、何かに気づいたように宙を凝視したところで、慌てて目を逸らす。
 身内に不幸があった? なんて尋ねれば、顔をヒクつかせる級友もいた。
 決めゼリフは、「知らなくていいこともある」だ。


 いい加減、私の言動に慣れてきた紗代に取って代わって、中学時代の被害者筆頭は勝海(かつみ)が担った。
 日坂(ひさか)勝海、同じ高校へ進学した上に、中高ずっと一緒のクラスになった腐れ縁。
 新鮮味に著しく欠ける男子だけど、イタズラへの反応は抜群にいい。

 どうもオカルト系を少し信じているようで、真面目な顔で背後霊を見てくれと頼まれたこともあった。
 単純というか、騙されやすいというか。

 念を込めた消しゴムだからお守りになるって吹き込み、ピンクのプラ消しを渡してみた。
 勝海はその消しゴムを一度も使わず、その癖、毎日学校へ持って来ていたようだ。
 将来、詐欺に遭うんじゃないかと、心配するレベルだよ。

 ウソつきアヤ――そんなありがたくない二つ名まで作られたけど、人を傷つけるようなウソは言ってない。
 みんな楽しんで、笑ってくれていたもの。
< 2 / 31 >

この作品をシェア

pagetop