身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「和谷先生優しいんですね。別れた女性と子どものために、多忙の中必死に時間を作って」

忙しいのだろうとは思っていた。時短勤務をしている分、持ち帰りの仕事も多そうだ。

「陽鞠さんが別な男性と結婚したら、和谷先生は父親の役割から解放されるのかしら」

笑顔で発せられたその言葉には明確な悪意があった。
この女、やっぱり修二のことが好きなんだな。

「そうですねえ」

私はにっこり笑って言った。

「修二はずっとまりあの父親でいたいそうですし、まりあは世界で一番パパが好きなんです。私も結婚には慎重にならなければならないですね。ふたりのために」

そこへ修二が戻ってきた。女たちの険悪な一瞬には気づかず、矢沢さんの手に書類を戻す。

「ありがとう。でも、今後はメールか電話で教えてくれないか。俺が早く出社すればいいだけだから。ここは彼女たちの家なんだ。勝手に来られるのは、陽鞠たちに迷惑がかかる」
「はい、申し訳ありません。どうしてもと焦ってしまいました」
「矢沢くん、仕事熱心だね」

修二がにこやかに皮肉なのか本音なのかわからない言葉を返す。矢沢さんは書類を胸に帰っていった。
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