身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「修二」

矢沢さんの去った玄関、まりあを床に下ろして私は言う。

「あの矢沢さんって、修二のこと好きでしょう」

まりあがだーっとリビングに走っていく背中を眺めつつ、修二が苦笑いした。

「付き合ってはいないから。まあ、アピールは感じるかな」
「和谷先生ったら、思わせぶりな態度、取ってるんじゃないの~?」

この前の喧嘩の内容を蒸し返して、にやにやと脇を小突くと、修二も笑った。

「その喧嘩、もう終わっただろ。本当に悪かったって。ほら、ごはん食べよう。俺、ケーキを楽しみにしてるんだから」

修二を困らせるつもりはない。ちょっとふざけたかっただけだ。
私は真面目な要望として口に出す。

「もう、ここには来させないでね」
「もちろん。ごめんな、迷惑かけて」
「迷惑っていうかさ、修二のことが好きな女に、じろじろ検分されたり、敵意を見せられるのが嫌なの。私、今の人、苦手!」

はっきり言ってやると、修二が大声で笑った。「陽鞠らしい」って。

なお、まりあがたくさんデコレーションしたケーキは半分以上修二のお腹に入り、ふたりともこの上なく幸せそうな顔をしていた。

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