身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「いずれはまりあを奪う訴訟でも起こす気?」
「陽鞠、何を言ってるんだ」
「私との結婚について考えているんだと思ってた。修二は最初からまりあを手に入れることばかり考えていたんだね」

修二が狼狽した様子で首を左右に振る。

「違う、陽鞠。結婚についてゆっくり考えてほしいからだ」

落ち着かせようとしたいのか、修二が私の肩に触れる。

「陽鞠を焦らせたくない。俺との結婚を不安に感じているなら、時間をかけて考えてくれていい。ただ、まりあだけは一日でも早く保証のある状態にしてやりたくて」
「私と両親でまりあは育てられるって言ったわ。今の状態が不安定みたいに言わないで」

私は修二の腕を振り払った。
心の片隅にあった疑念が膨張している。膨れ上がって爆発しそうだ。

「修二を信じたい、やり直したいと思ってた。だけど、修二はまりあを手に入れられればなんでもいいのかなとも思い始めてる」
「俺は陽鞠といたいと言った。陽鞠ともう一度恋愛からやり直したくて連絡をした。信じてもらえないのか?」

私たちは黙った。ああ、これは何度も積み重ねた喧嘩だ。
ここで逃げずに向かい合わなければ、私たちに未来はない。そう思っているのに……!

「ごめん、少し考えさせて」

私の口から出たのはそんな意気地なしのセリフだった。

「陽鞠!」
「帰るね」

修二を置き去りにベビーカーを押して歩き出す。
異変を察知していたまりあが、がたんとベビーカーの中で足を踏ん張った。立ち上がろうとして上手くいかず、座った姿勢で思い切り上半身を捻じって叫ぶ。

「パパーッ!」

修二はきっとまりあの声に身を裂かれる思いだろう。

「パーパーッ!」

雑踏の中、まりあのつんざくような声が響いていた。


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