身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
まりあがぱたぱた廊下を走っていく。私はベビーベッドに息子を戻し、コンビ肌着の裾をめくった。可愛い息子はべそをかきながら、私と修二の顔を交互に見つめている。まるで大声で泣き始めるタイミングを計っているみたい。
「可愛いなあ、保くんは。ママの天使」
すると、突然修二が私の顎をとらえた。
驚く間もなく、横を向かされ唇を奪われる。
まりあのいない隙をついての不意打ちのキスだ。
「可愛いなあ、陽鞠は。俺の天使」
私の言葉をまねて、にやっと笑う修二。
私は真っ赤になって、修二になんと言い返したものか悩んだ。とりあえず、くっついて来ようとするのを阻止するために、肘鉄を一発入れておく。
そこへまりあがおしりふきを手に戻ってくる。
「パパ、ママ! じゃれてないで、たもつちゃんのオムツ替えなさい」
「はーい」
私と修二は揃ってまりあに返事した。
回り道だったかもしれない。随分、さまよってしまったかもしれない。
何かひとつピースを掛け違えば、今の幸福はなかったかもしれない。
だけど、世の中のすべては小さな奇跡でできている。あのとき、まりあが私のお腹に宿ってくれたみたいに、修二と私がもう一度家族を遣り直せたこともまた素晴らしい奇跡なのだと思う。
修二に恋した奇跡を、まりあと保に出会えた奇跡を抱き締めていきたい。
一日一日に感謝しながら、この先いつまでも。
かくして私は、最愛の人に娘もろともまんまと奪われてしまった。
ここから先は、また新しい物語。
(了)
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
2020.9.25 砂川雨路
「可愛いなあ、保くんは。ママの天使」
すると、突然修二が私の顎をとらえた。
驚く間もなく、横を向かされ唇を奪われる。
まりあのいない隙をついての不意打ちのキスだ。
「可愛いなあ、陽鞠は。俺の天使」
私の言葉をまねて、にやっと笑う修二。
私は真っ赤になって、修二になんと言い返したものか悩んだ。とりあえず、くっついて来ようとするのを阻止するために、肘鉄を一発入れておく。
そこへまりあがおしりふきを手に戻ってくる。
「パパ、ママ! じゃれてないで、たもつちゃんのオムツ替えなさい」
「はーい」
私と修二は揃ってまりあに返事した。
回り道だったかもしれない。随分、さまよってしまったかもしれない。
何かひとつピースを掛け違えば、今の幸福はなかったかもしれない。
だけど、世の中のすべては小さな奇跡でできている。あのとき、まりあが私のお腹に宿ってくれたみたいに、修二と私がもう一度家族を遣り直せたこともまた素晴らしい奇跡なのだと思う。
修二に恋した奇跡を、まりあと保に出会えた奇跡を抱き締めていきたい。
一日一日に感謝しながら、この先いつまでも。
かくして私は、最愛の人に娘もろともまんまと奪われてしまった。
ここから先は、また新しい物語。
(了)
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
2020.9.25 砂川雨路