身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
『平坂?』
店頭に立つ私の耳に、懐かしい声が聞こえた。
『和谷先輩?』
振り向いた私は驚き、スーツ姿の彼を見上げた。二年半ぶりに会う和谷修二の姿だ。サラサラの髪も、整った容貌も、変わりないどころかあの頃のままに見えた。
『久しぶり。元気か? この店に勤めてるのか?』
修二は懐かしそうに目を細め、私に近づいてくる。
『ええ、そうです。一応、社員で。先輩は司法試験の勉強をされてるんですよね』
『この前、司法試験受けたよ。一応合格しましたけど~』
修二は歯を見せ得意げに笑う。
『え? ロースクールに行ってるんじゃないんですか?』
『去年予備試験に密かに受かってたんだな。大学四年の時は落ちたんだけどさ』
照れ笑いをして見せ、それからすばやく私に耳打ちする。
『平坂、上がり何時? 久しぶりに会ったし、近況報告がてら飯でも食べない?』
近い! 耳元で響く修二の声におののきながら、平静を装って答えた。
『私はあと二時間くらいで上がりですけど、和谷先輩はいいんですか?』
『平気平気。今日はロースクールの恩師に挨拶してきただけで、この後はなんにもない』
ドキドキするな。私は自分に言い聞かせた。この人が誘ってくれるのは、きっと単純に懐かしいからなのだ。だけど、胸の奥に残るかすかに甘い感情が浮かび上がってくる。
『じゃあ、ご一緒させてもらおうかな』
期待しちゃ、いけないぞ。私はもう一度自分に言い聞かせた。