身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「ああ、練馬の駅前で見たことがあるよ。そうか、頑張ってるんだな」

そう、頑張ってる。両親の力は借りてるけれど、私は私で頑張っている。まりあを片親だからと苦労させたくないもの。
そのとき、抱っこ紐の中でまりあがもぞもぞと動いた。背中が丸まり、次に手足がぐーんと伸びる。

「まあま」

私を呼びながらまりあが寝ぼけた目で見上げてきた。

「まりあ、起きたねぇ」

修二が緊張するのが空気でわかった。私がまりあを抱っこ紐から出すのを固唾を飲んで見守っている。
ワンピースの皺を伸ばし、床に立たせると、修二もまた歩み寄ってきた。まりあに目線を合わせるため、スーツであることも厭わず床に片膝をつく。
なんと説明しようか、一瞬迷った。だけど、ここはストレートに言うべきだろう。修二はそれを望んでいるだろうし、まりあのためだ。
よく寝てすっきりしたのか、まりあはきょとんと修二を見つめている。目覚めたら知らない場所で知らない人と向かい合っている状況だ。

「まりあ、お名前言える?」
「ひあしゃかまいあです」

平坂まりあときちんと言えないものの、堂々と名乗るまりあ。

「あのね。この人はまりあのパパなんだよ」

まりあは私の顔と修二の顔を順番に見た。泣き出したらどうしよう。
すると、意外なことが起こった。まりあはぱあっと表情を明るくした。私の言葉の意味を完全に理解したのだ。

「ぱぱらの?」

頷く私。修二が恐る恐る手を差し伸べ声をかけた。

「まりあ。パパだよ」
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