身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「ほら、まりあ」

口元を拭こうとウェットティッシュを取り出すと、嫌がってまりあは怒る。

「まま、め! あっちいけ」

あっちいけ、はイヤイヤ期のまりあの得意文句なんだけど……ママだって怒るわよ。
しかし、私が怒る前に修二が楽しそうに笑い声をあげる。

「まりあは自由に食べたいんだな」
「口の周り拭かれるの嫌いなのよ。自我が強くなってきて大変」

修二の笑顔に、怒るタイミングを失って、私は嘆息する。

「そういう時期なのか?」
「魔の二歳児っていうのよ。イヤイヤ期ってね。なんでも自分でやりたがったり、気に食わないと癇癪起こしたり。すごいんだから」
「陽鞠に似たら癇癪強そうだな」

あきらかに私を挑発する言葉に、私はむっとしながらも応戦する。

「あら、修二だってなかなかよ」

ふたりで悪辣なニヤニヤ笑いで睨み合う。
距離ってすごい。時間ってすごい。喧嘩別れした修二と、こんな冗談じみた言い合いもできるようになるのか。
デザートのケーキとコーヒーが運ばれてきた。美味しかったけれど、修二はきっと食事の味も覚えていないだろう。まりあに夢中だったもの。
フルーツを食べたまりあにはさらに赤ちゃん用のビスケットと牛乳が運ばれてきた。まりあはこれもご満悦で口に運んでいる。
< 30 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop