身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
ダイニングにはスーツ姿の父がお茶を飲んでいる。すでに朝食も終えている時間帯だ。

「おはよ。お父さん、今日は仕事の日か」
「おお、まりあのお迎えは行けないぞ」

父は定年後、同じ会社で嘱託社員として週三で働いている。

「大丈夫、私今日は早番だから」

私は自分の顔を洗いまりあの顔を拭いて、キッチンに舞い戻るとおにぎりを作り始めた。

「のりのりよ、のりのりほちいのよ」

まりあはベビーチェアに腰かけ、私の背中に叫んでいる。のりのりは海苔のことで、年長さんたちがおやつに食べているのを見て「おにぎりにはあれが巻かれているのだ」と理解したらしい。それからおにぎりに海苔をつけてくれとせがむのだ。咀嚼がうまくないまりあにはまだあまりあげたくない。きざみ海苔をさらにキッチンばさみで細かくし、少しだけ塩おにぎりに貼りつけるとまりあは納得したようだ。

「のりのりきたねえ」

にっこり天使のスマイルでおにぎりを持ち上げる。ああ、私の娘って世界で一番キュートなんじゃないかしら。
現在、魔の二歳と呼ばれる時期だし、まだ言葉がはっきりしないから、意志の疎通ができないことも多い。だけど、そんな日々の苦労を差し引いても余りある可愛らしさ!

「ほら、まりあは見ててやるからおまえも仕度してこい」

父に言われ、私は慌てて洗面所へ舞い戻った。洗濯物を抱えた母とすれ違う。

「まりあちゃんのお散歩帽子洗っちゃったけどいいの?」
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