身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「待って、それはどうしても今行かなければならないものなの?」

素直におめでとうと言いたいけれど、あまりにタイミングが悪い。ずらせるならずらしてほしいというのが本音だ。

「航空券が三月中なのよ」
「どのくらいの期間?」
「七泊なんだけど、航空券は三月中はずらせるの。だから、せっかくだし、ツアー後、三月末まで自費で向こうに滞在しようかと思って」
「ヨーロッパ一周は母さんの夢だったもんなあ」

母の言葉に父がうんうんと頷く。今は三月の頭。ほぼひと月ヨーロッパに行ったっきりってことだ。

「ねえ、お父さんお母さん、私が今月めちゃくちゃに忙しいって話はしたよね。まりあのお迎えは毎日お願いしたいって話、したよね」
「そこなのよね。それが申し訳なくてね」

母は旅行を諦めるという気はまったくないようで、ニコニコと言う。

「修二くんに連絡をして、その期間この家に来られないかお願いしてみたのよ」
「はあああ!?」

私は絶叫した。
何を言っているのだろう。私と修二は結婚前に別れているのだ。まりあという繋がりがあるだけで、現在はただの他人。どうして、我が家に招き入れるようなことを考え付いたのだろう。

「修二くん、喜んでいたぞ。俺だって都内に通勤しているけど、修二くんもこの家から職場に通えるそうだ」
「職場に時短を申請して、まりあちゃんのお迎えも行ってくれるそうよ」

私はがたんと立ち上がった。両親とはいえさすがに無神経だ。私と修二の経緯を知っているというのに。
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