身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「まりあが疲れちゃったら帰るよ。いつまでも良い子にここに座ってるとは思えないもん」
「ああ、それでいいよ」

住宅地を抜け、幹線道路を渡り、工場が建ち並ぶ一角を進む。まりあはずっと歌っている。保育園の朝の歌とお帰りの会の歌だ。

「修二、本当に大丈夫? かなり無理させることになっちゃわない?」
「ああ、毎日二十一時にはここを出られるなら、余裕だよ。俺の住まい、銀座の職場に近いからギリギリまで眠れるしな」

封書のやりとりはしていたから住所は知っている。いいところに住んでるなあと思ってたんだ。

「俺より陽鞠の方が心配だよ。同僚の退職とか休みが重なってるんだろ?」
「まあ、助け合いよ。私もたくさん融通してもらってるし、こなせるときはこなさないとね」
「身体壊すなよ。陽鞠が倒れたらまりあが困る」

気遣ってくれているようだ。修二は本当にあの頃より大人になった。いや、修二はもともと優しい男なのだ。みんなに好かれるサークルの人気者で、その他大勢の私みたいな後輩にも気遣ってくれる良い先輩だった。

「そうね、ママが倒れたら家庭がピンチだわ」
「俺も困るよ」

修二がさりげなく言った。それはどういう意味だろう。思ったけれど尋ね返さなかった。

ショッピングモールのスーパーで今夜の夕食の買い物を済ませて、帰路についた。帰り道まりあはベビーカーで眠ってしまった。モール内ではベビーカーを降り、修二の手を引っ張ってたくさん歩いたせいだろう。

「夕飯、食べていく?」
「ありがとう、でも帰るよ」

修二は眠るまりあの額を撫で、あっさりと帰って行った。
あらら、いいの? まりあが寝ている間に帰ってくれると、確かに別れ際騒がれなくて済むからラクではあるんだけど。
拍子抜けしつつ見送り、明日からの生活にかすかな緊張感を覚える私だった。


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