身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「私のこと? どこを?」
「働きながら、ひとりで娘さん育ててすごいですよ」
「いや~、私なんかホント甘ちゃんなの。両親の力を借りまくってるし、実家住まいだから家賃もかからないし」

実際、両親の手が借りられなくなった瞬間、パニック状態だもの。……これは言わないけど。

「でも、娘さんに関する決断を今後ひとりで考えていくわけでしょ。学校とか習い事とか進路とか」

確かにそうだ。子どものあれやこれやを夫婦で相談して決断していくということは私にはない。送り迎えや、家での育児について、両親に頼むことはあるけれど、まりあのこの先については私が最終決定者だ。

「覚悟がなきゃ、産めないですよ。尊敬してます」
「あはは、ありがと」

照れ笑いすると、佐富くんが冗談とも本気ともつかない口調で言う。

「俺、消防士目指してるんで。安定してますし、困ったら頼ってくださいね」
「ん?」
「ゴミ捨て行ってきます」

今の……なんだったんだろう。首を傾げつつ、とにかく閉め作業を優先させる私だった。


二十時半、ようやく帰宅すると玄関チャイムは押さず鍵を開ける。
まりあは出てこない。

「ただいま」

小声で言い、そうっとリビングに顔を出すと修二がこちらを見てしいと人差し指を立てて見せた。
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