身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
私は早速ごはんを盛り、食事を始めた。驚きだ。ちゃんと美味しいし、具材の切り方も作り慣れてる感がある。

「修二、美味しいよ。すごいね。家も掃除してもらってるし、家事できるんだね」

見回せば、今朝の惨状はすっかり綺麗になっている。まりあを見てくれ、食事を作ってくれ、整理整頓までやってもらってしまったのだ。

「そりゃ、ひとり暮らし長いもん」

修二と付き合っている頃、修二のアパートに遊びに行ったことは何度かあったけれど、食事は全部外だった。同棲をしていた短い間は、妻の務めとばかりに私が張り切って家事をしていたので、修二の家事スキルを見る機会がなかったのだ。

「作ってから気付いたけど。シチューって選択はよくなかったよなあ」

修二が気まずそうに笑って見せる。

「どういうこと?」
「別れ話をした日、陽鞠シチュー作ってくれたじゃん」
「ああ、そういえば」

私はシチューを食べることなく、翌日に家を出たのだった。お腹のまりあとともに。

「あのシチュー、三日かけて俺ひとりで食べたよ。美味いはずなのに、味がしなくてさ」
「古い話よ。もういいでしょ」

思い出話を遮り、箸を置いた。私はあらためて頭を下げる。

「今日はありがとう。こんな調子で三月末までお願いします」
「ああ、俺も楽しいから、いいよ」

修二はにこやかに笑い、それから間もなく帰宅していった。
なんだか、修二には余裕があって、あの頃の話もさらっとできて……。
いろんなことに動揺してるの、私だけみたいだなあ。


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