身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「陽鞠?」
「あ、いや、なんでもないんだけどさ。修二は仕事もしっかりこなしたあと、わざわざこっちまで来てまりあのお迎えも育児も家事までこなして……。私、まりあはひとりで育てるとか言っておきながら、全然ひとりじゃできてなくて……」

修二はごはんと味噌汁を準備し、ちょっと強引に私を椅子に座らせた。生姜焼きをレンジから取ってくる。

「これで結構、泣かれたり反抗されたりもしてるよ、まりあに」

修二は向かいの席に座って、私の顔を覗き込む。

「買い物中にベビーカーから降りるって暴れられたり、ごはんのときにスプーンとフォークを投げ捨てられたり。ママに会いたいって泣かれると無力感を覚えちゃうよ。やっぱ、俺じゃ駄目かなあって」

修二は私に気を遣わせまいと、この一週間半、そういったまりあのことを話さないでいてくれたのだ。

「でも、俺としてはただ懐かれるより我儘を言われた方が嬉しいかな」
「なに、修二ってドMなの?」
「お客さん扱いされてない感じするだろ? 俺も陽鞠と同じくらいまりあに愛されたいんだよ」

そう言って、修二はにっと笑った。

「料理もさ、これでレシピサイトみたり、毎日の献立アプリをスマホに入れたりしてんだよ。陽鞠にいいとこ見せたくて。俺って見栄っ張りだろ?」
「馬鹿」
「育児ってすごいな。陽鞠、あらためてここまでまりあを育ててくれてありがとう。陽鞠しかまりあのママにはなれない。だからな」

修二が腕を伸ばしてきて、私の髪をくしゃくしゃまぜっかえした。大学時代みたいに、恋人同士時代みたいに。

「無理するなよ。顔色がすごく悪い。体調、あんまりよくないんだろ?」

バレていたんだ。そして心配されていたみたい。
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