身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「ええと、店長、これ行きませんか?」

佐富くんが手渡してきたのは遊園地の招待券だ。ここからだとちょっと遠いけれど、人気のある遊園地である。

「どうしたの? これ」
「大学の友達がここでバイトしてて、もらったんです」

佐富くんは阿野さんがいないことを確認して早口で続ける。

「今度、まりあちゃんと行きませんか?」
「まりあと」
「俺も行くんで、育児の手は足りると思います」

驚いた。どうやらこれはデートの誘いのようだ。
待って待って、佐富くんは今大学三年生、来月から四年生。二十一歳。
私は二十九歳。今年三十になる。八つも年上のシングルマザーを遊びに誘わないよね。子ども連れでデートなんてしないでしょ、普通の男の子は!
私が返事に窮してぐるぐる悩んでいると、佐富くんは私の手にチケットを押し付けた。阿野さんがゴミ捨てから戻ってくる気配を察知したようだ。

「考えておいてください。返事、急がないので」

ううん、困った。そんなつもりで佐富くんを見たことはただの一度もないぞ。
どうしたらいいんだろう。私は困惑のまま始業を迎える。悩んでいても、今日も今日とて忙しいことに変わりはないのだ。
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