身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「もう遅くなっちゃったね。夕飯、明日食べるのでもいい?」
「うん、そうしな」

お皿を冷蔵庫にしまう。頭はまだなんとなく寝ぼけてるけど、修二とふたりきりになっている事実にはっと気づいた。まりあを挟んでいれば問題ないけど、ふたりきりだとどうしたらいいか……。

「陽鞠」

修二がこちらを見ずに言った。

「昨日はごめんな」

昨日……それは私が気にしていたソファドン事件だと思われ……。しらばっくれるのもわざとらしいので振り向いて答える。

「いや、コケたの私だから。痛くないように支えてくれたじゃん」
「そうじゃなくてさ」

修二は一瞬言い淀み、意を決したように顔を上げた。

「離したくないって思ったんだよ」
「え」

返す言葉が詰まって、それ以上出てこない。
修二はあのハグに意味を持たせようとしているの? 気持ちから生まれたものだといいたいの?
あれは事故だし、私は修二にその気はないって、言わなければならない。だけど、以前ほど簡単に拒絶の言葉を発することができなくなっている。
喉に言葉がつっかえる。

「……なんて」

修二は自嘲気味に笑った。

「ひとつ屋根の下で暮らしておいて、こんなことを言うのは反則だよな。もう言わないし、何もしないから安心して」

本当は勢いよく言ってやればよかったのだ。『あんたと復縁なんてあり得ない』
それなのに、どうして私の口から言葉は出なかったのだろう。

「お風呂、行くわ」

それだけやっと口にし、リビングを出た。
修二はまりあがほしいだけでしょ。私はおまけじゃない。……そんなふうに揺さぶってくるのはやめてよ。

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