身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「まりあちゃん、こんにちは」

大きな体躯を丸めてまりあに挨拶をしてくれる。まりあは元気よく返事した。

「こんにちは!」
「可愛いなあ」

佐富くんは子ども好きな感じのいい笑顔を見せ、私に向き直った。

「昨日の件、考えてくれました?」
「昨日の……」

私はその瞬間まで佐富くんに遊園地に誘われたことをすっかり忘れていた。まずい。なんのことって言いそうになっちゃった。よくないぞ、私。
鞄から財布を取りだし、札入れにしまってあったチケットを佐富くんに返す。

「ごめんね。やっぱり行けないわ」
「え、駄目ですか?」
「色々考えたけどちょっと遠いのよ。日帰りでまりあを連れ出すにはまだね」

実は今考えたんだけど……。
子どもを逃げ口上を使うのはあまりよくないとは思う。でも、一番角が立たない断り方でもあると思う。実際、まりあと日帰りで行くには遠いところだ。

「じゃあ、泊まりがけで行くのはどうです?」

佐富くんはめげずに提案してくる。うーん、若さってすごい。泊まりだなんて……ぐいぐいくるなあ。ちょっと驚きながらも私はやんわりと答える。

「そんなのおかしいわよ。それに、人手不足の今、店長として二連休は取れないかなあ」

さすがに佐富くんもそれ以上主張はできない様子だ。見る間にしゅんとしてしまう様子は叱られた犬みたい。可哀想な気分になってしまう。

「大学の友達と行きなさいよ。絶叫系のアトラクションも多いみたいだし、大人だけで遊びに行った方が絶対楽しいって」

元気づけようと言うと、佐富くんがこちらを見た。
< 89 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop