身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「俺は店長とまりあちゃんと行きたかったのにな」
「またまたぁ、何を言ってるの」

佐富くんが私のことをじっと見つめた。目尻が紅潮しているようにも見える。

「店長、俺の気持ち……なんとなく察してくれてるんじゃないんですか?」

おお? この流れはまずい気がする。だってこの後に来る文言って限られてるじゃない。
佐富くん、もしかして私に本気だったりするの……?

「俺は……」

佐富くんが口を開きかけた時だ。私たちの横にずいっと進み出た人影がある。

「陽鞠、ただいま」
「しゅ、修二!」

そこにいたのは修二だ。ちょうど仕事から帰ってきたタイミングだったみたい。
修二はものすごく剣呑な表情をしている。普段の爽やかイケメン弁護士じゃない。空気がぴりぴりと痛く感じる。

「ぱあぱ!」

まりあがベビーカーの上でお尻を跳ね上げ弾みだした。修二に腕を伸ばし、抱っこを求め始める。
修二はにっこりとまりあに笑いかけ、シートベルトを外して抱き上げた。

「まりあ、ただいま。ママと楽しく遊んでいたかい?」
「うん! こーえんいったよ」

修二は佐富くんに向き直る。まりあに見せていた笑顔が一転、冷たく厳しい表情に変わっている。

「陽鞠のパートナーでまりあの父です。こんにちは」

身長だけなら修二が高く、体格は佐富くんの方ががっちりしている。佐富くんが負けじと作ったような笑顔になる。

「はじめまして。平坂店長のお店でバイトさせてもらってます。光都大三年の佐富といいます」
「そうですか。それはいつもお世話になっています」

修二も張り付けたような笑顔になるけれど、瞳が笑っていない。
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