ズルくてもいいから抱きしめて。
私は走り出していた。

早く、、、!

早く樹さんの元に帰らないと!

早く、早く樹さんに会いたい!!

慎二と話せて、ドロドロしていた気持ちからようやく開放された。

辛い思いはたくさんしたけれど、お互いに“過去のこと”として前に進める。

あの後、お互いの近況報告をして別れた。

別れ際、慎二が教えてくれた。

私と会う数日前、樹さんと会って話をしたそうだ。

そして、私に6年前の真相を全て話して、ちゃんと向き合って欲しいと頼んだそうだ。

「俺は6年前の姫乃を知りませんが、今の姫乃は芯のある強い女性です。辛いことを経験しても、ちゃんと前を向いて歩いて行くことができる。今の姫乃なら6年前のことを話しても、ちゃんと受け止めることが出来るはずです。」

樹さんは私のことをそうやって話したそうだ。

そして、こうも言ったそうだ。

「6年前の真相を聞いて、姫乃が再びあなたを選ぶようなことがあれば、俺は姫乃を送り出す覚悟はしています。ただ、俺は諦めが悪いんです。全力であなたから奪い返します。それだけは覚えておいてください。」

樹さん、、、樹さん、、、樹さん、、、

私は走りながら、何度も心の中で彼の名前を呼んだ。

どんな思いで私を送り出したのだろう?

どんな思いで私の帰りを待っているのだろう?

私より先に慎二と会って話してたなんて、、、

全部知って、それでも私を信じて合鍵を渡したんだ。

私には何も言わないくせに、本当にズルい人。
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