ズルくてもいいから抱きしめて。
こんなに全力で走ったのは、いつ振りだろう?

何も考えずヒールで走ったせいで、靴擦れで足はボロボロ。

それでも走らずにはいられなかった。

一分一秒でも早く、樹さんの元に帰りたい。

部屋の前に到着し、今朝貰ったばかりの合鍵をしっかりと握り締めて大きく深呼吸をした。

鍵を回してゆっくりと扉を開けた瞬間、私の目から大粒の涙が溢れた。

目の前には大好きな人の姿があった。

「樹さん、ただいま!」

色々話したいことはあったけれど、私の口から出た言葉はそれだった。

そして私たちは、どちらからともなく強く強く抱きしめ合った。

「おかえり、、、姫乃。」



抱きしめ合ったまま一頻り泣いた後、私たちは部屋の中のソファーに移動した。

ズビッ、、、グズッ、、、ズズズ、、、

「ハハハッ、、、お前、泣き過ぎ!はい、とりあえずコレ飲めよ。」

樹さんはいつものように軽口を言って、私の前にマグカップを置いた。

その中には、いつもの温かいココアが入っていた。

温かくて優しい甘み、、、

ココアって、まるで樹さんみたい。

「グズッ、、、ア゛リ゛カ゛ト゛ウ゛、、、ズビッ」

鼻声で上手く喋れない。

クククッ、、、

隣で樹さんは笑いを堪えていた。

笑うなら堂々と笑って、、、

喋るとまた笑われそうなので、私は“キッ”と樹さんを睨みつけた。

そして、今度は2人して笑ってしまった。

あぁ、こういう時間を幸せって言うのかな。

慎二のことは本当に大好きだった。

彼の夢を応援したくて、会えなくて寂しくても我慢できた。

その気持ちに嘘は無い。

今回慎二と話せたことで、とても大切な思い出へと変えることができた。

これからは前にを向いて、樹さんとの思い出をたくさん作って行こう。
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