ズルくてもいいから抱きしめて。
「神崎が、あの有名な写真家の高木さんと知り合いだったとは意外だな。」

天城さんが不思議そうに聞いてきた。

高木さんと知り合ったきっかけを伝えれば、必ずあの人の話もしなければならない。
別に隠しているわけではないけれど、わざわざ失恋の暗い話をするのは気が引けた。
ただ、なんだか今日は誤魔化す気になれなかった。

「高木さんは、以前付き合っていた人の師匠なんです。」

「へぇ〜。じゃあ、神崎の元彼は写真家なんだな。」

「えっと、、、写真家というか、“だった”というか、付き合ってる時に急に居なくなっちゃって、今どこで何をしているのかも分からないんですよね。振るならちゃんと振れよって話しですよね。あはは、、、」

答えに困った私は、わざと明るく話した。

あれ以来、あまり深く考えないようにしてきた。
考えたところで答えは出ないし、あの頃を思い出すのも辛かった。

少し暗い気持ちになっていると、天城さんの手が私の頭の上に乗せられた。
そして、大きくてとても温かい手で優しくポンポンと撫でてくれた。

その瞬間、今まで我慢していたものが一気に溢れ出すように、私の目から涙がこぼれ落ちた。

「あれ！？どうしよう、、、泣くつもりなんて無かったのに、、、すみません、、、私酔ってるんですかね。」

慌てて泣き止もうとしたけれど、私の涙はなかなか止まってくれなかった。

天城さんは何も言わず、何も聞かず、泣いている私の頭を優しく撫で続けてくれた。
< 4 / 101 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop