ズルくてもいいから抱きしめて。
今日は、仕事の話をしに元彼の慎二と会う約束をしている。

慎二は、“shin”という謎のベールに包まれた写真家だった。

まさか彼が“shin”だったなんて、知った時はすごく驚いた。

でも、ちゃんと夢を叶えていたことがとても嬉しかった。

賞を取っても表舞台に出てこないのは、やはり車椅子が原因だろうか?

今までどの出版社とも仕事をして来なかった彼が、わざわざ私(元カノ)のいる出版社と仕事をするだろうか?

今回はなかなか手強そうな案件だな、、、



もう昼休みか、、、

約束は15時間だけど、移動時間を考えると今から出発した方が良いかな。

出先で昼食を取った方が、ゆっくり食べられそうだ。

樹さんも一緒に行くって言ってたけど、、、

そういえば、今日は全然デスクに戻って来ないし、連日会議続きで忙しそうだな。

私はとりあえずメッセージを入れて、出掛ける支度を始めた。

しばらくすると、大きな物音が聞こえた。

ガチャッ!!

バタン!!

「良かった!まだ居た!!」

樹さんは勢い良く部署のドアを開け、大慌てでこちらにやってきた。

「うわっ!そんなに慌てなくても良かったのに、、、会議長かったですね〜」

「あの年寄連中マジで話が長過ぎ!散々喋ったくせに、昼休みになった途端に終わらせやがんの!」

樹さんは朝イチからずっと会議に出ていたので、かなりお疲れの様子だった。

「まぁまぁ、、、お疲れ様でした。無理について来なくても良かったのに。」

「、、、まぁ、一応な。ほら、行くぞ!」

樹さんは鞄を持ってさっさと歩き始めたので、私は急いで後を追った。


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