ズルくてもいいから抱きしめて。
「以前少しお話しさせて頂いたように、是非ともうちから写真集を出して頂きたくて、、、」

私はいつもの仕事モードで、慎二に写真集の企画を説明した。

「なるほど、、、姫乃も知ってると思うけど、俺は今までそういう仕事は断ってきたんだ。やっぱりこの見た目だと写真よりもそっちに注目されてしまって、純粋な目で俺の写真を見て貰えないからね。だから、あまり前向きには考えられないんだ。」

慎二は車椅子であることをかなり気にしているようだった。

一度引き受けてしまうと、次から断り辛くなってしまう。

そのうち車椅子の写真家であることが表に出れば、話題性はあるが写真よりもそちらに注目されてしまう。

昔から写真で勝負したい彼にとって、それは屈辱的に違いない。

「えっと、ここからは仕事ではなく、私個人としての話をしても良い?」

慎二が黙って頷いてくれたので、私はそのまま話を続けた。

「私ね、慎二が“shin”だって知るずっと前からあなたの写真が大好きだった。初めてあなたの写真を見た時、何故だかすごくホッとして温かい気持ちになった。こんな素敵な写真をもっと沢山の人に知ってもらいたいし、私は慎二の写真をもっと見てみたい。確かに車椅子であることを注目してくる人もいるかもしれないけれど、あなたの写真はそれ以上に大勢の人の心を惹きつけるって信じてる。だから、お願いします!」

私は、純粋に慎二の写真のファンであることを伝え、必死で頭を下げた。

「天城さんは良いんですか?俺は一応姫乃の元カレですし、そんな俺と仕事をするのは嫌じゃないですか?」

慎二はとても真剣な顔で、天城さんに問いかけた。

「正直、何も思わないわけではないです。それは、惚れた女のことなので御容赦ください。ただ、姫乃は純粋に笹山さんの写真が好きで、そのために頑張ってかなり熱の入った企画書も作り上げています。“shin”の正体を晒したいんじゃなくて、笹山さんの撮る写真を大勢の人に発信したいだけなんです。俺からもお願いします。」

そう言って、樹さんも一緒に頭を下げてくれた。

「2人とも頭を上げてください。前向きに検討はしてみます。ただ、、、少し考える時間をください。」

私の知らないこの6年間で、きっと辛いことも沢山経験してきたはずだ。

今まで表に出て来なかったんだし、すぐに返事を貰えないのは仕方のない。

「大丈夫。ゆっくり待つよ。」

私のように、純粋に慎二の写真を好きになる人はきっといる。

私はそう信じている。
< 48 / 101 >

この作品をシェア

pagetop