ズルくてもいいから抱きしめて。
『まだ戻ってこないかな、、、』と部屋の入り口の方に目をやると、タイミングよく樹さんが会議から戻ってきた。

「いつ、、、天城さん!“shin”の写真集OKもらいました!」

嬉しさのあまり社内で“樹さん”と大声で呼びそうになり、慌てて言い直した。

「本当か!?やったな!!」

樹さんも喜んでくれて、私の頭を両手で思いっきりワシャワシャと撫でた。

「天城君、女の子にそういうことしちゃダメよ。」

そう言って樹さんの手を制したのは、樹さんの同期で第一編集室の室長【橋田 夏菜子】さんだった。

橋田さんは女性社員の中でも特に仕事ができて、美人で華やかな見た目も相まって憧れる人が多い。

カッチリとしたスーツを着こなし、ヒールをカツカツ鳴らして歩く姿は、本当にカッコ良かった。

「俺たちはいつもこんな感じだから良いんだよ。」

「あら、そんなんだから女の子たちが勘違いするのよ。天城君って天然タラシよね。ねぇ?神崎さんもそう思うでしょう?」

勘違いも何も、私たち付き合ってるし同棲もしてるんだけどな、、、

でも、あんまり堂々と言わない方が良いよね。

「あっ、えっと、、、私なら大丈夫です。」

「そう?それなら良いけど、、、」

橋田さんはまだ何か言いたそうだったが、“じゃあ”と言ってそのまま編集室の方へ戻って行った。

何だろ、、、何か含みのある言い方だったな。
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