ズルくてもいいから抱きしめて。
「もしもし、あのね編集の担当者が決まったの。うん、、、うん、、、うん、、、わかった。じゃあ、一度担当の編集さんと一緒に顔出しに行くね。うん、、、それじゃあまたね。」

私が電話を切ると、後ろからフワッと抱きしめられた。

「あっ、、、電話ごめんね。昼間バタバタして慎二に連絡できなかったから、、、」

樹さん、家で慎二に連絡するの嫌だったかな?

恐る恐る樹さんの方に振り向くと、いきなり喰らうようなキスをされた。

強引に舌が割り入れられ、全てを絡みとられるような熱いキスに、私の頭は何も考えられなくなっていった。

「ちゅっ、、、んっ、、、はっ、、、」

早急に服の中に手が入れられ、素肌に樹さんの手が触れると、私の体はビクッと反応した。

「お前、、、そんな蕩けた顔して俺のこと煽りすぎ、、、」

そう言って、樹さんはいつもよりも激しく私を求めた。



先ほどの余韻を体に残し、私は微睡の中にいた。

樹さんの手が私の頭を優しく撫で、私は薄っすらと目を開けた。

樹さんは上半身を起こして、仕事の資料を読んでいた。

「、、、あれ?、、、こんな時間に仕事?」

「悪い、、、起こしたか?」

「ううん、大丈夫。最近会議続きで体キツくない?」

「いや、俺は大丈夫。俺より編集の橋田の方が大変だろうな。編集は元々忙しいからな。」

「そうだよね。橋田さんは忙しいし、私がしっかりフォローしないといけないね。足引っ張らないようにしないと、、、」

「橋田は、仕事ができる分厳しいところもあるけど、面倒見の良いやつだから、あんまり気張り過ぎるなよ。」

「うん、、、」

樹さんは、橋田さんのことを“ただの同期”ではなく、“仕事ができるやつ”としてきちんと認めているんだな。

私とは違う対等な関係、、、

そんなことを考えていると、胸の辺りがチクッと痛んだ気がしたので、私は考えるのを止めてそっと目を閉じた。
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