ズルくてもいいから抱きしめて。
編集の担当が橋田さんに決まって数日後、打ち合わせのため橋田さんと共に慎二の元へ訪れていた。

「“shin”さんの編集担当をさせて頂く橋田夏菜子です。よろしくお願いします。」

「写真家の“shin”こと、笹山慎二です。室長さん自ら担当して下さるなんて頼もしいです。」

慎二と橋田さんは、互いに名刺を交換し挨拶を交わした。

「今まで謎に包まれていた“shin”さんと、こうしてお仕事させて頂けるのがとても嬉しいです。神崎さんもよく繋がりを持てたわね?」

「はい、、、」

仕事をする上で“元カレです”なんて言ったら、きっと気使わせてしまうよね。

なんて答えようかな。

私が返答に困っていると、慎二が先に答えてくれた。

「俺たち、昔からの知り合いなんです。俺が“shinとは伝えていなかったんですけど、たまたま個展に来てくれて、そこから写真集の話を貰いました。」

「そうだったんですね。出版業界初の写真集、かなり話題になると期待しています。素敵な写真集にしましょうね!」

慎二が誤魔化してくれたおかげで、それ以上は触れられずそのまま写真集の打ち合わせに入った。



「では、次回の打ち合わせで写真集のコンセプトなどを詰めて話していきましょう。」

そう言って橋田さんは、テキパキと帰り支度を始めた。

今回は、慎二と橋田さんの顔合わせがメインなので、打ち合わせは早々に終わった。

この短い打ち合わせでもよく分かった。

橋田さんは、本当に仕事が出来る人。

樹さんが認めるだけあって、この短時間で写真集の大まかな流れが既に出来上がった。

「橋田さんは室長をされてるだけあって、やっぱり凄いですね!短時間で、あんなに話が進むなんて驚きました!」

慎二との打ち合わせを終え、会社までの道すがら私は率直な感想を述べた。

「ありがとう!でも、神崎さんが沢山アイデアを出してくれたから、こんなにスムーズに進んだのよ。あなたみたいにやる気のある子と組めて嬉しいわ。」

橋田さんはバリバリ仕事ができるから、もっとキツい人かと思っていたけれど、本当はとても気さくで話しやすい人だった。

樹さんが信頼して、仲良くしている理由がよく分かった。
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