ズルくてもいいから抱きしめて。
最近の私は、橋田さんと行動することが多くなった。

橋田さんは特に忙しい“編集”に加え、室長という役職にもついている。

更に最近は社内の会議も多く、私が時間を合わせてランチタイムやコーヒーを飲むほんのひと時でも打ち合わせができるようにしていた。

「ランチタイムにまで打ち合わせさせてしまって、本当にごめんね。気が休まらないよね。」

橋田さんは、本当に申し訳なさそうに私に謝ってくれた。

「謝らないでくださいよ。橋田さんこそ、お忙しいのに時間を割いてもらって、ありがとうございます!」

橋田さんは、短い打ち合わせでも手を抜いたりはしない。

いつも真剣に目の前の仕事に取り組んでいる。

そんな橋田さんの姿を見ていると、周囲から憧れられている理由がよく分かった。

仕事ができ、裏表のない性格、それでいて美人。

“非の打ち所がない”とは、こういう人のことを言うのだろう。

私たちが社員食堂で打ち合わせをしていると、頭上にポンっと何かが乗せられた。

「お疲れさん。気分転換にこれどうぞ。」

あっ、私の好きな洋菓子店のケーキだ!

「ふふっ、、、ありがとうございます。天城さん。」

「外回りで、たまたま近くまで行ったからついでにな。」

私が好きなのを知っていて買ってきてくれたんだ。

樹さん、本当にありがとう。

橋田さんに気付かれないように、樹さんにこっそりアイコンタクトを送った。

「天城君さすがね〜女子の心を掴むのが上手いわ!」

「ハハッ!ついでだよ!、、、じゃあ、俺行くわな!」

樹さんが去って行くのを見送り、視線を前に座る橋田さんに戻すと、橋田さんの目線はまだ樹さんの方へ向いていた。

その目はとてもキラキラしていて、私は気付いてしまった。

橋田さんはきっと、、、

樹さんのことが好きなんだ。
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