ズルくてもいいから抱きしめて。
「コンセプトは、やはりA案でいきましょう。写真の選定などは笹山さんに自由に選んで頂いて、こちらは最終チェックだけさせて頂きますね。」

「わかりました。では、このコンセプトで選んでいきますね。」

慎二との打ち合わせがスムーズに進み、ある程度話がまとまったので、私たちは慎二が用意してくれたコーヒーを飲みながら雑談をしていた。

「あの謎だらけだった“shin”さんが、こんなにイケメンだったなんて驚きました!神崎さんも昔からの知り合いなら、ちょっとぐらい好きになったことあったでしょ?」

「どうですかね〜アハハ、、、」

“ちょっとぐらいどころか、昔はこの人が大好きでした!”とは言えるわけもなく、私は笑って誤魔化した。

「そういう橋田さんは、恋人や好きな人はいないんですか?」

えっ、、、慎二それ聞いちゃうんだ。

橋田さんは、なんて答えるんだろう?

「恋人はいませんが、、、好きな人はいますよ。もう何年もずっとずっと片想いしてるんです。」

「おっ!もしかして、同じ会社の人ですか?」

「はい、、、実はそうなんです。あっ!内緒ですよ!神崎さんも内緒にしてね?」

そう言って橋田さんが私の方を見たけれど、私は上手く目を合わすことができなかった。

樹さんとお付き合いしていることを、きちんと伝えた方が良いのだろうか?

でも、今伝えてしまって仕事に支障が出たら?

いや、、、橋田さんはそんな人ではない。

ただ、私が怖いんだ。

樹さんの恋人が私だと知った時、橋田さんがどう感じるのか怖い。

怖くて本当のことが言えないなんて、私はなんて卑怯なんだろう。

その後も橋田さんと慎二の恋バナは続いたが、私は終始上の空だった。
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