ズルくてもいいから抱きしめて。
あぁ、、、なんか頭が痛い。

体も怠いような、、、

橋田さんとカフェスペースで話した後、どうやって家に帰ってきたのかも記憶が曖昧だ。

私の方が先に帰宅してるし、樹さんが帰ってくる前にご飯の用意しとかないと、、、

そう思いソファーから立ち上がった瞬間、目眩がしてその場に蹲ってしまった。

私がそのまま動けずにいると、玄関で鍵を開ける音がした。

「ただいま〜、、、えっ!?おい、姫乃!!どうした!?」

樹さんは、蹲っている私を見るなり、急いで駆け寄ってきた。

「ごめんなさい、、、ご飯の用意しようとしたら、なんか目眩がして、、、」

「そんなこと俺がやるから、、、あれ?お前、なんか熱くないか?」

樹さんは、そう言って私の額に手を当てた。

「ほら、やっぱり熱あるじゃん。とりあえず着替えて横になっとけ。何か食べやすい物作るから。」

「うん、、、」



横になってしばらくすると、とても良い匂いがしてきた。

「姫乃、食欲はあるか?薬飲む前に少しだけ腹に入れとけよ。」

「うん、大丈夫。ありがとう。」

私は、樹さんが用意してくれた“たまご粥”を食べて、薬を飲んだ。

「樹さんも残業して疲れてるのに、看病までさせてごめんね。」

「なぁ、姫乃。こういう時は“ごめん”じゃなくて、“ありがとう”だろ。俺は迷惑掛けられたなんて思ってないし、むしろもっと頼って欲しい。お前が今何かで悩んでるのは知ってるから、、、」

樹さんはいつものように私の頭を優しく撫でた。

でも、どうしてだろう?

樹さんに優しくされればされるほど、私の胸はチクチク痛んだ。

「樹さん、、、橋田さんに告白されたって本当?」

「えっ?、、、あぁ、“好きだ”って言われた。でも、ちゃんと断ったから心配すんなよ。」

「やっぱり本当だったんだ、、、。橋田さんは美人だし、仕事も出来るし、樹さんと対等でいられるでしょ?樹さんは本当に私なんかで良いの?橋田さんのこと振って後悔しない?」

「姫乃、、、“私なんか”って何だよ。俺は姫乃が良いんだよ。美人とか仕事が出来るとか、そういうことじゃない。気張って仕事してめちゃくちゃ疲れてても、姫乃がそばにいてくれるだけでホッとするんだよ。お前以外なんて考えられるわけないだろ。俺は他の誰でもない“神崎姫乃”が良いんだよ。」

「私も樹さんじゃないと嫌だ!樹さんが良い!」

そうか、、、すごく単純なことだったんだ。

他の誰でもなく、お互い代わりの人なんて考えられない。

橋田さんのようになる必要なんて無くて、私は私なんだ。
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