ズルくてもいいから抱きしめて。
“shin”の写真集の担当編集が橋田に決まり、姫乃と橋田が2人でいる姿をよく見かけるようになった。

橋田の仕事ぶりは俺も信頼しているし、姫乃の良い手本になってくれると思う。

橋田の好意には薄々気付いていたものの、楽しそうに話している姿を見て俺は呑気に安心していたが、しばらくして、姫乃は考え込むことが多くなった。

そんなある日、残業していると橋田から声を掛けられた。

「お疲れ様！ねぇ、ちょっとだけ話せない。」

「ちょうど休憩したかったし、コーヒー飲みながら話そうか。」

そう言って、俺と橋田はカフェスペースへと移動した。

2人でコーヒーを飲みながら雑談していると、橋田の表情が真剣なものに変わった。

「天城君、、、私ね、ずっと前からあなたのことが好きだったの。」

やっぱり、、、

俺が感じていた橋田からの好意は、やはり本当だった。

「橋田は、美人で性格も良くて、すごくイイ女だと思う。でも、すまん、、、俺には大切にしたい子がいる。本気で愛してるし、これからもその気持ちは変わらない。橋田の気持ちには答えられない。」

「うん、、、知ってたよ。振られるって分かってたけど、どうしても気持ちを伝えたかったんだ。私の自己満足に巻き込んでごめんね。」

橋田が泣きそうに見えたが、俺には涙を拭ってやることができない。

だから俺は、それに気付かないふりをした。

「いや、伝えてくれてありがとう。」

「うん、、、それじゃあ、私そろそろ行くね！」

そう言って、橋田は足早に帰って行った。

最近姫乃の元気がないのは、もしかしたらこの事が原因なのだろうか？

もしそうなら、今回の橋田からの告白は姫乃には知らせない方が良いのかもしれない。

俺は姫乃には知らせず、しばらく様子をみることにした。
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