夫婦未満ですが、子作りすることになりました

泣き崩れると繋いでいた手を引っ張られ、座ったままの彼に抱きしめられた。多分ギャラリーにものすごく見られていると思うけど、神代さんはまるで気にしていない様子で私の背中に手を添え、ポンポンと優しく叩いてくれる。

「この後あいてる?」

ささやかれ、さらに腰が砕けた。

あいていると答えたらどうなっちゃうのだろう。経験はないけど、バーでお酒を飲んでその後どこかへ行くなんてまずい気がする。初対面の人とその日に……なんて私には刺激が強すぎる。いろいろ予習だってしたいし。

「あ……あいて、ない、です」

泣きべそをかきながら熟考した上での返事をすると、マスターがまた「あちゃー」と頭を抱えていた。そしてやはり、神代さんはまたしてもクスクスと笑っている。

「オッケー。今日は帰すよ」

断ったけど怒っていない。彼は私を抱いたまま立ち上がり、マスターから請求書だけを受け取った。財布を出そうとバッグに手に伸ばしたが、それは彼に奪われてしまった。
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