夫婦未満ですが、子作りすることになりました
「そんなこと言うと本当に連れて帰っちゃうけど?」
それでもいい。でも恥ずかしくてうなずけなかった。実家暮らしの私が外泊なんて家族になんて説明しよう。相手について聞かれたらちゃんと答えられるだろうか。慣れないことへの不安が駆け巡り、「えっと……」と言葉に詰まる。
「悩むなら帰ったほうがいい。俺も酒でうやむやにはしたくない」
そ、そうだよね。私ったらなにを考えてるんだか。恥ずかしい。おとなしくタクシーの座席に収まり、下を向いた。すると、彼の腕がもう一度伸びてくる。
「えっ」
後頭部に手を添えられてグッと引き寄せられ、座席からほんの少し体が浮いた。導かれるようにキスで唇を塞がれて「んん」と声がもれる。
すぐに解放されたが、私は奪われた唇を押さえて小鹿のように震え、彼を見上げた。
「これで、嘘じゃないってわかった? 凛子はもう俺のものだから。忘れるなよ」
放心状態の私がどうにかコクンとうなずいたのを確認すると、零士さんは今度こそ運転手さんに合図をした。ドアが閉まり、いつまでも固まっている私を窓越しに見送っている。
「じゃ、じゃあ出しますね」
不自然に黙っていた運転手さんがやっと声を出した。どっと気まずさに襲われて、私は肩を狭めながら「お願いします」と小さくつぶやいた。
夢見ていた以上のファーストキス。こんなの忘れられるわけがないよ。