夫婦未満ですが、子作りすることになりました
「なにがダメなんですか。見た目ですか。そこまでひどいですか」
「いえ、お綺麗だと思いますよ」
綺麗だと言われ、簡単にキュンとした。しかしすぐに、薬指の指輪が光る彼をじろりと睨む。綺麗だと思うなら私のなにがダメなの。
黒のストレートヘアーは三ヶ月に一度美容室で整えているし、学生時代、母に習ってきちんとナチュラルメイクを勉強した。このピンクベージュのレースワンピースだって三万円もしたのに。
完ぺきに仕上げていたせいでさらに惨めになり、テーブルに突っ伏して「うえーん」と声を出して泣いた。すると人の少なかった店内がざわつき始める。私が泣いたせいかと申し訳なくなって慌てて顔を上げたが、どうやら違った。
「いらっしゃい、神代さん」
バーテンダーさんが入口に声をかけたため、私もそちらを振り向く。背の高いおそろしく魅力的な男性が、そこに立っていた。ざわついたのはこの人のせいらしい。
「マスター。いつもの」
神代さんというその人は私の左隣をひとつ開けた席に座り、スーツの足を組む。カクテルがゴキュンと音を立てて私の喉を通っていった。