夫婦未満ですが、子作りすることになりました

マスターだったらしいバーテンダーさんがボトルを選び始めて背を向けたところで、神代さんは隣の私を見る。

「なにか」

彼はそう言った。私はよほどじろじろ見ていたらしい。怪訝な顔で、低い声を出された。慌てて「い、いえ」と返して前を向いたが、彼の顔が脳に焼きついて離れない。

ガラス玉のような目をした、睫毛(まつげ)の長い端正な顔立ち。整えているのにサラサラと艶のあるブラウンの髪。細身で引き締まった理想的なスタイル。今日の婚活パーティーで見た誰よりも、比べ物にならないくらい素敵だった。

酔っぱらっていることを言い訳に、再度ちらりと彼を盗み見た。今度はなにも言われない。というより無視をされている。べつにいいもん。どうせあなたには恋人がたくさんいるんでしょ。

「う、う、ううう……」

悲しくなってまたうめき声を出すと、戻ってきたマスターが神代さんのコースターにショットグラスを置き、苦笑いで私たちの間に立った。
< 4 / 104 >

この作品をシェア

pagetop