夫婦未満ですが、子作りすることになりました

「遺伝子目当てだなんて誰が言った?」

彼の声は低かった。母も明日菜もバックについてるため、私は負けずに強気に返す。

「若葉さんという女性と会っているのを偶然見てしまって、すべて聞きました」

「は? 若葉?」

「はい。彼女は政略結婚するはずだった相手で、それを断るために私を婚約者に仕立て上げた、と。神代家は優秀な遺伝子を持つ女性と結婚するなら政略結婚はしなくていい、だからご両親も納得する私を選んだんですよね」

これは実際に聞いた話なのだから、間違いない。突きつけたらきっと零士さんはバレてしまったと焦るだろう、そう思ったのだが。なぜか彼は静かに黙り、まっすぐな目で私を見つめていた。

「……そうか、おかしいな。俺はそのとき、こうも言っていたはずなんだが。相手は『ずっと好きだった女性』だと」

え? そりゃ、たしかにそれも聞いたけど。

「それは若葉さんを納得させるための嘘、ですよね?」

「なぜそこだけ嘘だと受け取る? 俺はひとつも嘘をついていない。ずっと凛子が好きだった」
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