アクマの果実
今日は遠足だ...。
遠足がある高校って珍しいよな...。
おかげでおにぎりめちゃくちゃ作んなきゃいけないはめに。
なんで私、こんなことやってんだろ。
2人ともにこにこしながらおにぎり食べてるけどさ。
これでもかってくらい心込めて作ってやりましたよまったく。
念込めすぎて固くなったかもしんないけど。
そんなことは知らん。
「河津さん、ありがとうございます。」
「どういたしまして。喜んでくれてよかった。」
「あ...おにぎりだけじゃなく笑顔までくださるんですね。河津さんって本当に優しいです。」
「そ、そう?」
「はい。最近、河津さんの側にいるだけでも色々と恵んでくださるから素敵です。」
その顔はお菓子で喜ぶガキと一緒...。
余裕で不審者に連れて行かれそう...?
まあ、いい。
微笑ましいよね。
「良かったね秌場くん。一時期は大変だったもんね。
天界病院送りになっちゃったことあったし。」
「天界に病院あるの?
というか、悪魔って天界よりじゃないでしょ?」
「病院は天界にしかないので...。
どんな方でも受け入れてくださるんです。」
「栄養失調だけじゃなく、精神的に病んでしまったからね。」
「病むとかあるの...?なんか不憫だけど。」
「天候による食物不足や、戦争など色々あって、自分も食料どころじゃなくなっちゃって...。
なんとか雨を降らせたり、戦争を終わらせるように少しずつ頑張ったつもりなんですけど、栄養やスタミナ切れには勝てなくて。」
「俺はとめたんだけどね。
秌場くん優しいからなかなかやめなくて。
苦しみ続けた結果、身っ喰いしだしちゃったんだよ。」
「え...?」
「みかねた俺がダイヤルして、強制送還させちゃった。」
「それで...大丈夫だった?」
「荒治療されたので、一命は取り留めたというか。むしろ引き延ばされたというか。
天界で育てられた林檎をいっぱい食べさせられちゃいました。」
「林檎...?」
「はい。あれを食べるとどんな病気でもたちまち良くなるんですけど、食べる度に寿命が伸びてしまうんですよね。」
「寿命が伸びることはいいことじゃない?」
「人間はそう思いますよね。
でも、それは結構辛い苦行でもあるんですよ。ずっとお家に帰れないまま、食べものや飲み物も持たされずに延々広い砂漠を歩かされるようなものです。」
秌場の話を安澄はうんうんとうなずきながらきいてる。
「寿命が単に増えるなら確かに良いとは思いますよ。
でも、僕の場合は元あるものを引き延ばされただけなんです。
粘土を棒など使って伸ばしても、重さは変わらないでしょう?それと一緒ですよ。
人間はちゃんと節ごとに厚みや繋がりがあります。あらゆることにしっかりとした意味を持っているんです。」
「でも、俺たちは長い代わりに薄くて脆い。
そのかたちを維持するのは人間よりずっと大変だ。
でも、俺たちにとって破滅は死とも違う。
人間は平等に死が訪れるけど、
俺たちには長い間許されない。
それがどれだけ苦しいことか...。」
...すごく深い話...。
「俺は少し食べればずっとまともに生きてられるダイオウグソクムシみたいなもんだけど、秌場くんは寿命が強引に伸ばされたからかなりのペースで食べなきゃ苦しいんだよね。元々は少食だけど、量も増やさなきゃだろうし。」
「しかも普通の食べものじゃだめなんでしょ?
こういう、気持ちが入ったものじゃなきゃ。」
「はい...。人間の食べものはどんなものでも気持ちはあるものですから、大丈夫ですけど...。」
「効率は悪いよね。エンゲル係数半端なくなってお金が尽きるよ。
悪魔や死神でもここにいるからには郷に従えで基本はズルできないんだ。」
へえ...。
「それに、秌場くんは頑張って人間にとって良いことをしようとしたけど、天界では基本的に人間への干渉って不法行為で普通に罰せられるからね。
そんなわけで、秌場くんは後にも先にも寿命、もはや因果まで強引に広められちゃったわけだ。極刑より酷い話だよ。」
「え...じゃあ私の目を治したのっていけないこと??」
「あ...それなんですけど。グレーゾーンというか...。
謝らせてください。すみません。」
「大丈夫...?」
「実は、契約というカタチになっていたんです。人間に干渉するときに違法性が阻却されるように、悪魔は人間と契約を結んだうえで行動します。そして、その制約上の行為だけしかできないことになってるんですよ。
契約は...当たり前ですけど、本人の意思表示が必要なんですけど、それを十分伝えないまま、勝手に契約してしまっていました。」
「よ、よく分からないんだけど、
どういう契約...?」
「僕は河津さんの視力を良くしますが、その代わり河津さんには食べものを1ヶ月間恵んでもらうという約束で...。
勝手にすみません!」
「1ヵ月...?
まあ別におにぎりとかでいいなら構わないけど。」
「いいんですか...?」
「逆に1ヵ月分だけでいいの?
それで目が良くなるってすごくない?」
「そうですかね?
あ、でも必ずしも罰が逃れるわけじゃないので、契約行為自体控えるようにしてるんです。」
「あ、うんそうだよね。
大丈夫。私そんなに欲深くないから。
あと一応、2人が人間じゃないことって他の人には秘密にしておいた方がいいよね?」
「ありがとうございます。
河津さんは本当に優しいですね。」
「そうかな...。
まあ、こんなチープな優しさで良ければいっぱい食べてよ。」
「チープだなんてとんでもない。
甘くて美味しいです!」
「あまいの?」
「はい。」
遠足がある高校って珍しいよな...。
おかげでおにぎりめちゃくちゃ作んなきゃいけないはめに。
なんで私、こんなことやってんだろ。
2人ともにこにこしながらおにぎり食べてるけどさ。
これでもかってくらい心込めて作ってやりましたよまったく。
念込めすぎて固くなったかもしんないけど。
そんなことは知らん。
「河津さん、ありがとうございます。」
「どういたしまして。喜んでくれてよかった。」
「あ...おにぎりだけじゃなく笑顔までくださるんですね。河津さんって本当に優しいです。」
「そ、そう?」
「はい。最近、河津さんの側にいるだけでも色々と恵んでくださるから素敵です。」
その顔はお菓子で喜ぶガキと一緒...。
余裕で不審者に連れて行かれそう...?
まあ、いい。
微笑ましいよね。
「良かったね秌場くん。一時期は大変だったもんね。
天界病院送りになっちゃったことあったし。」
「天界に病院あるの?
というか、悪魔って天界よりじゃないでしょ?」
「病院は天界にしかないので...。
どんな方でも受け入れてくださるんです。」
「栄養失調だけじゃなく、精神的に病んでしまったからね。」
「病むとかあるの...?なんか不憫だけど。」
「天候による食物不足や、戦争など色々あって、自分も食料どころじゃなくなっちゃって...。
なんとか雨を降らせたり、戦争を終わらせるように少しずつ頑張ったつもりなんですけど、栄養やスタミナ切れには勝てなくて。」
「俺はとめたんだけどね。
秌場くん優しいからなかなかやめなくて。
苦しみ続けた結果、身っ喰いしだしちゃったんだよ。」
「え...?」
「みかねた俺がダイヤルして、強制送還させちゃった。」
「それで...大丈夫だった?」
「荒治療されたので、一命は取り留めたというか。むしろ引き延ばされたというか。
天界で育てられた林檎をいっぱい食べさせられちゃいました。」
「林檎...?」
「はい。あれを食べるとどんな病気でもたちまち良くなるんですけど、食べる度に寿命が伸びてしまうんですよね。」
「寿命が伸びることはいいことじゃない?」
「人間はそう思いますよね。
でも、それは結構辛い苦行でもあるんですよ。ずっとお家に帰れないまま、食べものや飲み物も持たされずに延々広い砂漠を歩かされるようなものです。」
秌場の話を安澄はうんうんとうなずきながらきいてる。
「寿命が単に増えるなら確かに良いとは思いますよ。
でも、僕の場合は元あるものを引き延ばされただけなんです。
粘土を棒など使って伸ばしても、重さは変わらないでしょう?それと一緒ですよ。
人間はちゃんと節ごとに厚みや繋がりがあります。あらゆることにしっかりとした意味を持っているんです。」
「でも、俺たちは長い代わりに薄くて脆い。
そのかたちを維持するのは人間よりずっと大変だ。
でも、俺たちにとって破滅は死とも違う。
人間は平等に死が訪れるけど、
俺たちには長い間許されない。
それがどれだけ苦しいことか...。」
...すごく深い話...。
「俺は少し食べればずっとまともに生きてられるダイオウグソクムシみたいなもんだけど、秌場くんは寿命が強引に伸ばされたからかなりのペースで食べなきゃ苦しいんだよね。元々は少食だけど、量も増やさなきゃだろうし。」
「しかも普通の食べものじゃだめなんでしょ?
こういう、気持ちが入ったものじゃなきゃ。」
「はい...。人間の食べものはどんなものでも気持ちはあるものですから、大丈夫ですけど...。」
「効率は悪いよね。エンゲル係数半端なくなってお金が尽きるよ。
悪魔や死神でもここにいるからには郷に従えで基本はズルできないんだ。」
へえ...。
「それに、秌場くんは頑張って人間にとって良いことをしようとしたけど、天界では基本的に人間への干渉って不法行為で普通に罰せられるからね。
そんなわけで、秌場くんは後にも先にも寿命、もはや因果まで強引に広められちゃったわけだ。極刑より酷い話だよ。」
「え...じゃあ私の目を治したのっていけないこと??」
「あ...それなんですけど。グレーゾーンというか...。
謝らせてください。すみません。」
「大丈夫...?」
「実は、契約というカタチになっていたんです。人間に干渉するときに違法性が阻却されるように、悪魔は人間と契約を結んだうえで行動します。そして、その制約上の行為だけしかできないことになってるんですよ。
契約は...当たり前ですけど、本人の意思表示が必要なんですけど、それを十分伝えないまま、勝手に契約してしまっていました。」
「よ、よく分からないんだけど、
どういう契約...?」
「僕は河津さんの視力を良くしますが、その代わり河津さんには食べものを1ヶ月間恵んでもらうという約束で...。
勝手にすみません!」
「1ヵ月...?
まあ別におにぎりとかでいいなら構わないけど。」
「いいんですか...?」
「逆に1ヵ月分だけでいいの?
それで目が良くなるってすごくない?」
「そうですかね?
あ、でも必ずしも罰が逃れるわけじゃないので、契約行為自体控えるようにしてるんです。」
「あ、うんそうだよね。
大丈夫。私そんなに欲深くないから。
あと一応、2人が人間じゃないことって他の人には秘密にしておいた方がいいよね?」
「ありがとうございます。
河津さんは本当に優しいですね。」
「そうかな...。
まあ、こんなチープな優しさで良ければいっぱい食べてよ。」
「チープだなんてとんでもない。
甘くて美味しいです!」
「あまいの?」
「はい。」