アクマの果実
なんだか、色々巡ったな...。

「お疲れ様です。河津さん。
最後にもうひとつ寄りたいところがあるんですけどいいですか?」

「うん。」




しばらく人通り少ない場所を歩いて...。


小高い丘にでた。


夕焼けが綺麗だな...。



「ここから見る景色が好きなんです。

あと、周りも草木やお花がたくさんあって、

命の息吹を感じます。」

そう言って夕陽の中で笑う秌場くん...。

...なんだろう、これ。

私...誰かとどこかに行くなんて...。

そんなことしたことなかったし、一緒に夕陽を見るなんて、それこそ...。


もしかして私...。

口説かれてる...?

なんて勘違いしちゃうくらいだ。


「秌場くん...。」

「はい。」

「今日は楽しかったよ。」

「ありがとうございます。」

「でも私...今、自分がどういう気持ちなのか分からないの。
秌場くんなら分かる?」

「...僕にも分かりません。不思議な感覚です...。」

「秌場くんは、どんな気持ち?」

「僕ですか?
うーんと...。

人間の方と出かけるってあまり無いので、終始ドキドキしていたんですけど。

楽しかったです。こんなに楽しんだのは、久しぶりですね。

ありがとうございます。河津さん。」

「秌場くんが連れてきたんだよ?」

「僕のわがままに付き合ってくれて。

これ、僕からの贈り物です。今日お付き合い頂いたお礼ですけど...。」

「え...。」

なんだか、手のひらサイズの白い小さな箱を差し出してきた。

「開けてもいい?」

「はい、もちろん。」

「わ、きれい...。
これって、ブローチ?」

「はい。以前、異国にお邪魔していたときに譲り受けたものなんですけど。

河津さんに是非使ってもらえると嬉しいです。」

「いいの?これ、貴重な物じゃない?」

「僕より河津さんの方が似合いますから。」

そうかな...。

こんなに綺麗なもの私には...。

これって宝石?

赤く輝いて、ルビーみたいな。

こんなに大きなルビーは見たことないから流石に違うと思うけど。

「紅くて綺麗だね。」

「ほんとですね。こんな色を見たのは初めてです。」

「そう?
夕陽が反射して綺麗に見えるってことかな。」

「...そうですね。遠い空の上からこの夕陽を眺めたら、こういった色に見えるのでしょうかね。」

「夕陽を空の上から見ても、赤くは見えないと思うよ。」

そう言っても、彼は夕陽をしみじみと見つめるままだ。

...きれい。






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