アクマの果実
「それ、秌場くんからもらったの?」

すっかり帰宅した安澄に箱を見ただけでそう言われる。

「はい。
1日付き添ってくれたお礼だって。」

「そりゃたいそうなものを。
大事にしなよ。」

「え、やっぱり貴重なものなんですか?」

「まあね。常人じゃまずお目にかかれない代物だよ。それは彼の父親が作ったものでね。

向こうの市場でも滅多に出回らない。」

え...。

やっぱり返そうかな?

「秌場くんのお父さん...?」

「そう。とても凄い方だよ。
人間だから、とうの昔に亡くなっているけれど。」

「お父さんは、人間なんだ...。」

「だから秌場くんはちょっと人間っぽいかもね。
普通、人間のために重罪を課せられる悪魔っていないんだよ。
悪魔が人間に干渉するときって、君たちがよく知ってる、魂の捕食のためとか、天災を引き起こすためぐらいだよ。」

「なんだか微妙な立場なんだね。」

「まあね。秌場くんは複雑だよ。色々。」

「...そういえば、秌場くんは外国とかにも行ってるみたいだけど、秌場とか、安澄って、
偽名?」

「そうだよ。本名は晒さないな。
君たち人間にはあまり馴染まないやり方だと思うけど。」

「それは、やっぱり絶対秘密って感じ?」

「そうだね。あと、名前って言っても、君たちと違って文字とかそういう単純形式じゃないから。伝えようにも伝わりづらいよ。」

「なるほど。」

「それはともかく、少し興味あるんだけど。」

「何に?」

「その箱の中だよ。」

「ブローチ?
見たことないの?」

「開けてみてもらってもいい?」

「うん。」

安澄にそれとなく急かされて開けるけど。

...あれ?

「へえ...。
こういう色なんだ。」

「ううん。これも綺麗だけどこんな緑っぽい色じゃなくて。
はじめて見たときは真っ赤だったよ??」

「真っ赤?」

「うん...。」

「まあ、今はそういう気分ってことじゃない?」

「気分?どういうこと?」

「俺もよく知らないけど、持つ者の性質や感情などに反応して色が変わるそうだよ、それ。」

「え??
じゃあ、真っ赤だったってことは...。」

「情熱の赤とかいうし。
昨日はさぞ楽しかったんだろうね。
秌場くん。」

「え、秌場くんの感情だったの??」

「さあ。」
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