アクマの果実
そんなわけで。

「お邪魔します...。」

「いらっしゃい。」

またこのお家にお世話のなることに。

「で...安澄くんは今なにしてるの?」

「包丁研いでる。」

「え、そう...。
なんか怖いなぁ。」

「刃物は大事にしないと。
むやみやたらにつまらないものをきらないように。」

「五右衛門さんみたい...。」

「日本刀なんて、恐れ多くてまだ持てないよ。秌場くんぐらいの実力者なら別だけど。」

「え、秌場くんって実力者なの?」

「彼は悪魔だけど、死神の才能あると思うよ。君たち向けにいえば、殺人鬼かな。」

「え...。」

「いやですね、安澄さん。
怖いこと言うのやめてくださいよ。
それはあくまで成績的な話ですし、僕は一度も殺しなんてしてませんよ。」

「そうだけどね。
君の剣捌きは、惚れ惚れするよ。
俺が未だに嫉妬するくらいだ。」

「嫉妬?」

「林檎を食べさせられたのも、栄養源が特殊なのも、本当は好き嫌いの範疇じゃなくて、こっち側の上層部がけしかけたことなんだよ。俺は、秌場くんへの差し金として召喚されたってわけ。」

「え、じゃあ秌場くんって、今騙されてる?」

「種明かししたから、現在進行形じゃないけどな。」

「そうですね。なんとなく分かります。」

何が分かるんだか...。

「秌場くんはそれでも居候するの?」

「はい。安澄さんのこと信用してますから。」

「思いっきりスパイだって言ったよ?さっき。」

「それは死神さんたちの話ですからねぇ。」

「いやだから秌場くんがっつり関わってるって。...っていうか、そんなに秌場くんって要注意悪魔なの?」

「要注意どころじゃないよ。
彼のポテンシャルって、まさに世界破滅に匹敵するんだから。そうなりゃ破壊神様もお手上げってね。」

ほんと、相変わらず現実味のない話。

「それに、一応言っておくと、
俺より彼の方がずっと歳上だからね。」

「え...それなのにタメ口?」

「せめてもの抵抗だよ。
俺が彼に敵うはずがないから。」

「秌場くんはそれでいいの?」

「構いません。僕は安澄さんの意向に従うまでです。」

「そもそもそんな危険な秌場くんとスパイの安澄くんの家に私が転がり込んでいいの?
人間への干渉ってダメだって言ってたし、逆もしかりなんじゃないの?」

「だって今はプライベートだし。
どうやったって河津さんが直接関係する話じゃないから。
俺たち人外だって、友好関係の形成と干渉は分けて考えてるよちゃんと。」

「心配ないですよ。
事態が深刻化したらまた林檎を食べさせられるだけです。」

「だから、それは断じて許さないって言ったよね。
俺にだって情はあるんだよ、秌場くん。」

「友達でいてくれるって、
この前約束してくれましたからね。」

「うん。その代わり、もう絶対に身喰いはしないでね。
どんなに辛くても。苦しくても。」

「はい。僕もそう約束します。」

「私に出来ることあったら言って?」

「ありがとうございます。」

「早速ご飯作ろうか。」

「お手伝いします。」

「俺も。」

「ありがとう。」
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