アクマの果実
なんだか、寝付けない。

トイレにでも行こうかな。

と、廊下に出る。

...。

なんだか、やるせない気持ち。

今まで、ひとりとか、別に普通だったのに。


「ユナ。」

「あ...リテア、さん...。」

「歳下なんだから、呼び捨てでいいわよ。

眠れないの?」

「...うん、まあ...。」

「意外と嫉妬深いのね。」

「え...。」

なんだか、さっきまでとは違って、子どもじゃないみたいな...。

「人間って孤独に敏感なのよ。
精神や感情なんて、無駄なものを背負った生き物。」

「...。」

「それはそうと、面白いもの持ってるのね。」

「え?」

「右手に持ってるでしょ。
無駄なものでも美しく輝く宝石。」

足音もなく、すぐそこまで近づいてくるようだった。

気づけば、顔がすぐそこにある。

ブロンドの髪の毛が、暗闇のくせにやけに輝いて、さらりと服や、頬に触れた。

その小さな、ひんやりとした手が、私の右手を開かせる。

「ほら、真っ赤。
深紅の薔薇みたい。」

「...。」

「それは人間だけが持つ本能の色なのよ。
嫉妬の感情は、この宝石をこんなにも紅く色づけるのね。」

パシン!

...!!

ブローチをとられた。

「ツカサのこと、好きなんでしょ。」

「...!!」

心の中を、丸裸にさせられたようで、恥ずかしさで全身に熱いものが走る。

「ばかね。
こんなものもらったって、ツカサのこと手に入れられるわけじゃないのに。」

「違...!
とにかくそれ、返してください!」

「嫌。
こんなの、壊してやるんだから。」

「やめて。」

「人間(ユナ)なんかが、ツカサに釣り合うわけ、ないのよ。」

「やめてよ!

...!」

小さな肩に、手が置かれるのを見た。

「ツカサ...。」

「リテア。
それを返しなさい。」

「な、なんでそんな言い方するの?」

「それは彼女のものだから。
人のものをとってはいけないよ。」

「とってない。見せてもらってただけ。」

「それなら、すぐに返せるよね。」

「こんなの...どうしてユナにあげたの?」

「誰を輝かせたいか、持ち主を選ぶんだよ。」

「信じられない。
ユナには孤独感と嫉妬ぐらいしかないのに。」

「そんなことない。優しくて、とても美しい人だよ。」

「ツカサ...どうして私をそんな目で見るの?」

「僕はどんな目をしてる?」

「まっすぐ、私を見てる。
でも、私じゃない私を見るような目をしてる。」

「リテア...君は、とても綺麗だ。それで良いんだよ。」

「私にちゃんと感情がないからって、そう言うのね。」

「そんなこと。
ちゃんと、優しさもぬくもりもあるよ。
僕がちゃんと確かめた。」

「...ツカサの血を飲んだからかも。」

彼はゆっくりと頷いた。

それから、リテアは私にブローチを手渡した。

「はい、返す。

でも、ツカサも私も、誰かに対する想いなんて、味や空腹を満たすぐらいにしか感じてないから。
それを覚えておいて。泥濘にはまって後悔しないでね。」

そう言うと、小さな少女は、長い髪をなびかせてながら、踵を返した。
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