今宵、キミが砕け散る
何度も聞いたことがある名前に、思わず眉を顰める。
「カエデさん、知ってるのかよ?この女」
「まぁ、有名だからなぁ〜。北のトップのカエデさんは」
イカれてて、狂ってて、慈悲なんてひとつもない残酷な人間が北のトップ、相原カエデ。
……嫌な記憶が脳裏を掠めて、慌てて首を横に振った。
それより、今は優香だ。一度でも北に足を踏み入れたら、無事で帰ってくることなんて不可能に等しい。
だから、ここで攫われてしまったら……それこそ本当に終わりだ。
「取り敢えずー、早いとこやっちゃいましょーか!」
そう言って、1人は優香の手首を拘束し、残った男たちが私を捕まえようと掴みかかってくる。
……やれるかな。
美苑に言われた通り、今の私は弱い。前に優香を助けた以来、喧嘩はそれっきりだ。今の私では、1人で男数人をどうこうできるわけがない。
ふと、目に入った「それ」。
ニヤリと口角を上げて、私はその場にしゃがみ込んだ。