今宵、キミが砕け散る


「あ、」


振り返れば、私達をさらったうちの1人がこっちをぽかんと見ていた。

理解したのか次の瞬間、その顔は怒りに染まる。


「何してんだテメェら!」


勢いよく向かって来た男を、宵ちゃんは澄ました顔で足払いをして倒れされた。


「っ、縄してたはずじゃ」

「あー、あれね。とっくに外したよ。結ぶの甘すぎ、あんなの直ぐに解けちゃうよ」


ははっ、とこんな状況でも綺麗に笑みを浮かべる宵ちゃんは、私だけに見えるように手を動かした。


『早く行って』


そう言いたいんだろう。すぐに分かった。

でも、宵ちゃんを置いていけるわけなくて私はその場を動けずにいた。

そんな時、数人の足音がこっちにに近づいてくる音が聞こえて、今度こそ宵ちゃんは声を発した。


「早く!」


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